● 保険に関わる不正、詐欺行為 (米国の場合)
- そのB
(例4)
カリフォルニア州からニューヨーク州にかけて、被害者数が7,000人に達したエンパイア・ブルー・クロスの保険金詐欺事件。
被害者の中には聖職者、末期の癌患者が含まれている。
詐欺の首謀者はウィリアム・ローブ、偽証罪等多くの前科を持つ。
1988年、ローブは架空の労働組合を作り、ニューヨークの大規模の保険会社、エンパイア・ブルー・クロスの総合医療保険の販売を始めた。
既に病気にかかっている保険カバーを得られない人々がこぞってローブの保険プログラムを購入した。
既存の高額保険料の契約を解約して、ローブの低保険料のプログラムに変えた人々もいた。
ローブは短期間に多くの契約を取付け、コミッションを稼いだ。
ラスベガスで一度に3万ドルを賭けに費やし、ベンツやジャガーを乗回し、妻に労働組合の正社員として給料を支払い、ロスアンゼルスのガールフレンドの為に6万ドルのリムジンを手配した。
カリフォルニア州ウォールナッツクリークの64才の聖職者、ロバート・ランヨン氏の妻ドロシーは足の手術が必要であった。
氏は教会の出版物の広告でローブの医療保険プログラムのことを知った。
そして広告に掲載されているエージェントのゲリー・ウェザレル(元聖職者)を通じて保険を購入した。
ウェザレルに対し殆ど質問はしなかった。
彼を信じていたからだ。
アナハイムではカーペット工場のオーナー、コニグリオ氏が家族と従業員の為にローブの医療保険を購入した。
コニグリオ氏は、ブローカーであるデニス・ウィルソンを信頼していた。
コニグリオ氏とウィルソンは以前パートナーとして中古車販売業を経営した仲であった。
ルイス・ジョーンズ氏は、これまで氏の保険を取扱ってきたエージェントが閉店することになり、新しいエージェント、ニック・チニッティを紹介された。
チニッティが持ってきた保険料の見積を見た時ジョーンズ氏は驚いた。
それは保険料がこれまでより月に800ドルも低かったからだ。
不安ながらもクリスマスの3日前申込書に署名した。
ローブはエンパイアー・ブルー・クロス社に話を持ち掛けた時、
前科や労働組合について調べられることはないだろう、と高を括っていた。
更に、発見されることを防ぐ為に、同社の役員に賄賂を渡していた。
1990年の夏、エンパイア・ブルー・クロス社は500万ドルの未払い保険料を理由に組合との契約を解約した。
エンパイア・ブルー・クロス社が手を引いたとき、組合は自家保険を行うと発表した。
しかし、既に、保険金の支払を受けられない多くの顧客がエージェントに説明を求め始めていた。
組合の本部はいくつかの非認可保険会社(Non-Admitted Insurer)と次々に契約を結んだが、保険金未払額が増えるばかりであった。
ただ、保険会社変更の度にエージェントはコミッションを得た。
この頃、月に5千ドルのコミッションを稼ぐ者もいた。
1990年の春、フロリダ州はこのプログラムの販売を禁じた。
エンパイア・ブルー・クロス社は同州で営業認可を取得していなかったからである。
同社はカリフォルニア州でも営業認可を持っていない。
しかし、カリフォルニア州は対応が遅すぎた。
その為、契約者の負う損害額は何百万ドルにも膨れ上がった。
1990年の終わり、連邦労働局によってローブの組合は閉鎖された。
1993年、ローブは賄賂と詐欺の罪で、連邦刑務所に送られた。 1997年、その他の共謀者(エージェント2人を含む)も同様、連邦刑務所送りとなった。
1993年、被害者は、組合とエージェントに対し集団訴訟をおこした。
訴状には、認可を受けていない保険会社の商品を販売したのが、最大の過ちであった、とある。
エージェントはそれを知っていたはずだ、と。
殆どのエージェント(カリフォルニア州の多くのエージェント含む)が800万ドルで和解した。
エージェントのE&O保険(エージェント/ブローカー専門家職業賠償責任保険)引受会社がその賠償金を支払った。
エージェントの一人は後に次のように語った:
"(ローブのプログラムは)始めから怪しいとは思っていたが、どこからも医療保険を得ることができない顧客の為についやってしまった"と。
(例5)
プルデンシャル生命保険会社は1982年から1995年の間、担保内容を偽って契約を取り付けた。
被害者はカリフォルニア州だけでも75万人の上ると言われている。
カリフォルニア州保険庁がプルデンシャル社との交渉で決定した和解金額は1千5百40万ドルであった。
この中には罰金5百50万ドル、
州保険庁の費やした損害調査費、その他の法的経費の補償額として140万ドル、消費者対策費2百万ドルが含まれている。(1997年6月19日号のブローカーズ・リポートに掲載)
B. 市民/保険契約者/移住者による不正、詐欺
カリフォルニア州だけをとってみても、1980年から10年間に州保険庁の詐欺部門が、詐欺の容疑で調査した件数は29,000件、損害額にして4億ドルであった。
容疑者としての逮捕者数は960人で、その内、90%に有罪判決が下りている。
1993年から1994年にかけては、調査した件数は24,407件で、逮捕者数は255人であった。
又、自動車保険に関わる1994年の不正、詐欺容疑の件数は12,653件であった。
1996年の逮捕者数は112人であった。
(例1)
1988年、リチャード・ボッグス医師のオフィスでメルビン・ハンソンの死体が発見された。
火葬にされ埋葬された。
ハンソンの生命保険会社は死亡通知を受け、保険金の支払を始めた。
しかし、死体の顔写真をハンソンの保険申込時の写真と照合したところ、別人であることがわかった。
直にボッグス医師のオフィスと自宅の家宅捜査が行われた。
そこで死体は実はハンセン氏ではなくエリス・グリーンだと判明した。
更に調査を進めるうちに、ボッグス医師、ハンソン、ハンソンのビジネスパートナーで保険金受取り人であるオハイオ州のジョン・ホーキンスが、ハンソンの150万ドルの生命保険金を獲得する為に企んだ詐欺であることであるとわかった。
グリーンの死体をハンソンであると証言し、保険金の一部100万ドルを受取ったホーキンスはオハイオに戻り、1988年の7月には国外に逃亡した。
1991年、ホーキンスはイタリアのサルディ二アで逮捕された。
容疑はエリス・グリーンの殺人幇助、詐欺、重窃盗罪である。 1995年10月ホーキンスは懲役25年の刑を受けた。
ハンソンは整形手術をし、名を変えマイアミに住居を構え、時折国外に出た。
1989年1月、帰国したところをテキサスの税関で逮捕された。
1992年、ボッグス医師は殺人と詐欺の容疑で逮捕され、終身刑に処せられた。
(例2)
労災保険に関わる不正である。
カリフォルニア州保険庁は人材派遣会社である「カリフォルニア優秀人材会社」の社長及び副社長を労災保険詐欺と重窃盗罪で逮捕したと発表した。
詐欺調査官によると、逮捕された二人は同社従業員の職種別を偽ったことに加えて、従業員の傷害事故を保険会社に報告しなかった。
従業員の職種別を偽ることにより保険料約100万ドルの支払義務を逃れていた。
逮捕されたのは、社長ジョアン・アイドルマン(64才)と副社長シドニー・ブラッドピース(63才)である。
有罪判決を受けた場合、被告は7年間の禁固刑に加えて100万ドルの罰金、或いはどちらか一方を課されることになる。
今回の逮捕はカリフォルニア州保険庁詐欺調査部門とロスアンゼルス地区検事の労災詐欺調査部の合同による3年間の調査の成果であった。
二人は例えば製造業従事者を事務職者に偽ることにより保険料が低くなることに目を付けた。
従業員の傷害事故を意図的に報告しなかったことも明らかになっているが、報告を怠った為に傷害を被った従業員は保険カバーを否定され、補償を受けられなかった。
(1998年7月10号のブローカーズリポートに掲載)
(例3)
アメリカ特有の移住者による保険金詐欺である。
初めて米国に移り、お金もなく、言葉も話すことができない時、同国人に簡単にお金を稼ぐ方法
− 自動車の衝突事故を企てたり、医療費を誇張する −
を持ち掛けられたとしたら....。
ワシントンDCの本拠を置く保険金詐欺対策連合(Coalition Against
Insurance Fraud; CAIF)の調べでは、この5年間移住者による保険金詐欺が、その頻度と金額が高さで目立っていること指摘している。
保険会社は移住者の詐欺リストを作成する等の対応をしているが、彼らのやり方は年々賢くなってきているという。
1991年のソビエト崩壊以降、同国からの移住者の数は増えた。
クリントン大統領は移住者に対し門を広げた。
優秀な人材(科学者、研究者)と共に悪人も増えているということである。
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