米国リポート (1999年6月)

● 医療制度(2)

殺人を犯した精神分裂症患者が精神科医を訴える

以下はテレビのCBSのニュース番組「60分間」で報じられた:

"ノースカロライナ大学の法学部の優等生が授業中突然暴れだした。 直ぐに医務室に運ばれ、治療を受けた。 彼は以前から精神異状の兆候が認められていた。 医務室で精神分裂症と診断された彼は大学の精神科医の治療を受け始めた。 治療中には薬も与えられた。 学期末にその精神科医は退職した。 最後(6回目)の治療の時、精神科医は彼に新しい精神科医に引き続き治療を受けるよう指示した。 しかし、彼は、新しい精神科医に連絡をとらなかった。

8ヶ月後、彼は突然被害妄想に襲われ(インタビューでそう表現していた)ライフルを持ち出し、通りで二人の白人男性を射殺した。 裁判後、彼は州精神病院に収容された。

3年後、彼は精神科医を不当治療、及び、治療怠慢を理由として訴訟を起した。 訴訟理由として、新しい精神科医に診てもらうことを十分に指導されなかった、彼自身が社会にとって危険な存在であるということをアドバイスされなかった、として。 そして裁判では驚くことに、陪審員は精神科医に対し、彼への損害賠償金として$500,000の支払を裁決した。 勿論、上訴されるあろうが、それまではこの裁決が有効となる"

番組の中で、法律ジャーナリストや被告となった精神科医は、この裁決が今後の精神/神経治療に与える影響について語っていた;

"精神科医は今後特殊な患者の治療を拒否するようになるのではないか。 精神科医は、患者に対し、アドバイスと薬を与えるが、患者がそれを服用しているか、アドバイスに従っているかを24時間中監視できるわけではない"と

ナショナルアンダーライターの1998年11月2日号の『Point and Viewpoint』でもこの問題が取上げられていた:

医療費が年々増加する理由の一つに、Malpractice Insurance(医師専門家賠償責任保険)の保険料の上昇がある。 米国の医療コスト総額は一兆ドルを超える。 この内、医師賠償責任保険料は50億ドル、即ち、医療コスト総額の0.5%である。 従って、もし、手術を行い、医療費の合計が2万ドルだとした場合、その内の100ドルは医師賠償責任保険料ということである。

前述した精神病患者の殺人が医療コスト上昇の直接の要因になることはないが、今後、精神医療やその他の治療におけるAvailability(=治療を受けられる可能性; 患者が、訴訟を恐れる医師によって治療を拒絶される場合があるということ)に影響を与えることは確実である、と結ばれていた。

(1998年11月保険毎日掲載)

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