● 信用調査報告書(Credit
Report)に関する保険規制
カリフォルニア州議会では毎年、保険に関する多くの法案が提案される。
法案の殆どが、 立法者に対する"保険はいかに規制されるべきか?"
という基本的な問いかけになる。
議員はどの程度の規制が妥当であるのかを決定しなければならない。
規制が緩すぎる公衆を危険にさらすことになる。
しかし、厳しすぎる場合、公衆は適切な保険を適切な値段で購入することができなくなる。
現在懸案中の法案の内、保険会社の信用調査報告書(注)の使用に関する規制法律案については、
緩すぎず厳しすぎない適切さを追求しようとしている州議会にとって最大の試練となるのではないだろうか。
信用調査報告書は保険引受要件として、25年以上前から使用されている。
1970年に国会で可決された"公平な信用調査報告に関する法律(=The
Fair Credit Reporting Act)"には、信用調査報告書の使用目的がリストアップされている。
保険引受もそのリストに含まれている。
保険会社は四半世紀もの間、保険引受要件として信用調査報告書を参照してきたわけであるが、
厳しい批判の的となったのは極最近である。
信用調査報告書を利用する保険会社が増えていることから、
以前より公衆の厳しい批判の目にさらされているようだ。
保険会社は、
技術革新のおかげで、申込問合わせと殆ど同時に顧客のクレジット支払記録にアクセスし、
当記録とその顧客の事故発生の可能性との関連性を調べることができる。
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(注)信用調査報告書(Credit Report):
クレジットカード、ローンの個人の支払歴が記録されている。
保険会社は信用調査機関が収集したこれらの信用調査報告書(個人の支払歴/状況)を取り寄せ、契約申込者の引受判断基準に用いる。
自動車保険シェアでは全米で5位、現在も売上げを伸ばしているプログレッシブ保険会社は、信用調査報告書を早い時期から採用した保険会社の一社である。
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信用は他の保険料算定要素とは異なっているか?
信用調査報告書は他の保険料算出要素とは異なっているのだろうか?
ドライバーの運転記録をみれば、
当人の事故発生の可能性を予想できるというのは、
我々の殆どが納得するところである。
又、住宅建物の構造種類も損害危険の可能性を予測する際の基準となることも納得できる。
しかし、収支管理の良否が、自動車またはホームオーナーズ保険の損害を予測する尺度となる得るだろうか?
信用調査報告書と損害危険の関係はかなり曖昧である、という事実が、ある人達にとっては、信用調査報告書の使用を禁ずる十分な理由になるようだ。
ただ、幾つかの州で信用調査報告書の使用を禁止する法律案が提出されたが、公聴会の後、立法者によって否決されている。
カリフォルニア州では、1997年に保険会社の信用調査報告書使用を禁ずる法律案が議会に提出された。
この法案は一委員会に指示された。 しかし、
次の段階に進める為には、法律案作成者は、法案の正当性を証明する資料を収集しなければならない。
保険会社の信用調査報告書の使用を禁ずる正当な理由としては:
1)
信用調査報告書と損害危険の間にはなんら関係が存在しないこと、又は、
2)
信用調査報告書を使用することは、人種、国籍、又は収入によって差別する結果になる、
という2点であろう。
統計での証明
個人の支払歴と損害危険の間には、相関関係が存在するということは、実は、統計上明らかなのである。
次の5つの機関がその証明を行なっている。
一番目が NAIC(全米州保険長官協会)の依頼によりティリングハースト社(調査会社)が行なった信用調査報告書に関する調査/分析報告書である。
ティリングハースト社は保険会社9社の自動車保険とホームオーナーズ保険を調査した。
その内、 8社のデータから信用調査報告書(支払歴)と損害率の間には99%の相関関係があることが確かめられた。
残り一社のデータからは92%の相関関係の可能性が証明された。
他の保険引受要件/保険料算出基礎より、遥かに高い関連性が認められたのである。
2番目は、NAIC(全米州保険長官協会)が1997年、信用調査報告書に関する白書の作成に於いてオールステート保険会社が提供した資料である。
オールステート社のデータは、
信用調査報告書と損害危険の間に相関関係が存在することを明確な方法で証明している。
3番目。
アリゾナ州保険庁はオールステート社の主張の正否を確かめる為に独立のアクチュアリーに分析結果の見直しをさせた。
アクチュアリーの報告書はオールステート社の主張を支持するものであった。
4番目。
全米の州保険規制者は、信用調査報告書と損害危険との関係について調べ、相関関係の存在を確認した。
プログレッシブ保険会社は、現在、25州で自動車保険引受要件に信用調査報告書の使用が認可されたことを報告している。
最後の証明の出所は、"現実の世界"である。
信用調査報告書使用の度合いは保険会社毎に異なる。
大手を含め、信用調査報告書を一切使用しない会社も存在する。
使用する理由は、保険会社が特定の保険申込者の引受に際し、信用調査報告書と損害率に相関関係があると見做した時だけである。
市場の回答
もし相関関係が存在するとすれば、信用調査報告書を引受要件に採用している保険会社はそうではない会社より一般的に業績が良いであろう。
そして、もし、相関関係が無いのなら信用調査報告書を使用している保険会社は競争力を失ってしまう為に、その使用を自ら止めるであろう。
相関関係があるか否かの問いには、最終的には市場が答えるだろう。
又、信用調査結果と損害危険に相関関係があるか否かを調べるための統計は、「信用調査報告書が不当に低所得者や少数民族を差別しているのではないか」という問題に対して答えを与えるものではない。
信用調査報告書の使用に関する正しい理解が為されていないから、このような(同報告書が低所得者や少数民族を差別するために使用されているのではないか)疑問が発生しているとも言える。
ここで明確にしなければならないのは、"アンダーライターは、
契約者の保険料支払の有無や遅延を疑っているから信用調査報告書を使用するのではない。
損害危険の発生可能性を予測する為に使用している"ということである。
信用調査報告書には個人の収入額は記載されていない。
個人が収支をいかに管理し、支払義務を果たしているか否か、の記録である。
高所得者が必ずしも経済的に安定しているわけではないし、
低所得者皆が、経済的に不安定であるわけではない。
実際、低所得者の方がクレジットカードによる支払義務が少ないため、
支払記録/負債状況は良好であり[低保険料]のカテゴリーに分類される場合が多い。
サクラメント・ビジネス・ジャーナルの97年10月31日号に、保険会社の信用調査報告書の使用に関する記事が掲載されていた。
消費者団体のビル・エイハン氏へのインタビュー記事である。
記事を引用する:
".....消費者団体は、保険会社による信用調査報告書の使用は低所得者や少数民族に対する差別であると考えていた。
何故なら、低所得者層の信用調査報告の内容は好ましくないものだろうと信じていたからだ。
しかし、
プログレッシブ保険会社のデータを見た後、エイハン氏は、
中所得者層又は高所得者層にも信用調査報告書の内容の好ましくないドライバーがいる、ということを知った。
『責任感(支払に対する義務感)のある人は車の運転も慎重であり、自動車整備管理に対し積極的である。
負債を負っている人は、整備を怠ったり、保険金請求額を誇張する可能性が高い。
今後は、保険会社の信用調査報告書について一切コメントを差し挟まないというのではないが、
保険会社側の言い分を聞く用意がある....
』とエイハン氏は語っている....."
信用調査報告書を使用することが少数民族への差別になるかどうかをいう問題はNAIC(全米州保険長官協会)の審議会でも取り上げられた。
しかし、数ヶ月間の調査後、信用調査報告書の使用によって少数民族が差別されているいう事実はないことが明らかになった。
NAIC(全米州保険長官協会)白書にはこう記載されている:
"信用調査報告書の使用が一部のクラスの人々(人種、国籍、所得者層による)に対して好ましくない影響を与えたといったような調査結果は出されていないことを、立法者は確認している。
他の業界においてはそのような調査結果があるようだが..."
消費者の大部分が保険会社の信用調査報告書の使用を支持している。
1994年のハリス調査では、消費者の70%が信用調査報告書の使用を指示していることが明らかになっている。
金銭上安定していることが保険料に反映される、即ち、保険料減額をもたらすからである。
使用に反対している30%の内の半分は、自身の信用調査報告書の中身をチェックすることが許される上でなら、使用を支持すると答えている。
3つの利点
保険会社や我々業界団体(IIAA=全米保険会社協会のこと)は、
これまで信用調査報告書を使用することによる保険申込者の利点について、消費者への十分な説明がなされていなかったことを反省する。
利点についてより深く理解をしてもらうことができれば、
信用調査報告書の使用に対する疑問を払拭することができるだろう。
三つの利点とは:
先ず第一に、 提案103条やその他の保険規制法は、 引受要件/保険料算出基礎には、
申込者個々の特性に重きを置かせようとしている。 従って、提案103条は個々の運転歴の重要性を強調しているのだ。
支払歴/状況(信用調査報告書の中身)は明らかに、個々の金銭上の責任及び管理を反映している。
支払歴は個々の特性である。
個人がコントロールできる特性である。
第二に、 消費者は州保険庁に対し、"保険会社は保険引受において主観的要件を採用している。
より客観的な要件を重要視させるような規制法を作るべきではないか"
と要求しているが、
個人の支払歴ほど、客観的な要件はないのではないだろうか。
引受要件/保険料算出基礎が客観的であるということが消費者保護になると言うのなら、
信用調査報告書は正に、消費者を保護している。
第三に、 そして、最も重要な点であるが、
信用調査報告書を引受要件として利用することによって、
もしかしたら(信用調査報告書無しでは)拒否されたかも知れない保険申込者の保険付保が可能になっているかも知れないのである。
多くの人は、
保険会社が「引受を拒否する為」に信用調査報告書を使用していると思い込んでいるかのようだ。
しかし、保険会社は引受を拒否する為に営業しているわけではない。
保険会社は良好な契約者の保険を引受けたいのだ。
信用調査報告書によって良好な契約者を見つけ出したいのである。
白書の作成中、NAIC(全米州保険長官協会)は我々NAII(全米保険会社協会)のメンバーに、信用調査報告書の使用についてアンケートをとるように依頼してきた。
アンケート結果では、多くの保険会社が信用調査報告書を使用していないことが明らかとなった。
使用している保険会社の殆どが、"通常の"の引受要件では引受けを拒否された自動車や住宅保険契約の申込者を、
信用報告書を使用することによって拾い上げているのが実状だと答えている。
より多くのビジネスの引受
保険会社は、信用調査報告書を使用することによって契約数を増やしているのだ。
引受件数を減らしているのではない。
損害率が高い、不十分な建物構造、引受に望ましく地域(荒廃した地域)も、信用調査報告書を参照することによって引受けを可能にしているのだ。
望ましくないリスクというカテゴリーに入れられた人々の90%が、良好な支払歴を持っている。
信用調査報告書の使用によって、
引受を拒否されたであろうこれら90%が保険を手に入れることができたのだ。
却って、信用調査報告書の使用が禁止されることによって保険を失ってしまう契約者が現れることになるかもしれない。
我々は、今後も信用調査報告書と損害危険の相関関係について調査を続けるつもりである。
又、信用調査報告書の使用が不当な差別になるか否かについても調査する必要がある。
立法者及び消費者は、
信用調査報告書の使用に関する規制を厳しくすることによって、現在(この信用調査報告書のおかげで)保険のカバーを得ている人々が、保険を失う可能性があることを認識しておかねばならない。
1998年1月、カリフォルニア州議会は保険規制法の見直しを行なう。
実験や経験による証明に基いて、
公平で正当な引受原則尊重し、消費者利益を尊重しつつ、見直しを行なうとすれば、
保険会社の信用調査報告書の使用禁止の提案は認め得がたいはずである。
By Sam Sorich, ASV., NAII
cCopyright UNDERWRITERS' REPORT, 1/1/98; used with permission
以上
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