● 保険に関わる不正、詐欺行為 (米国の場合)
- そのA
A. エージェント/ブローカー/保険会社による不正、詐欺
カリフォルニア州は引受保険料総額が最も大きい州、即ち、最も"裕福"な保険マーケットである。
生損保険会社の収入保険料総額は650億ドルに上る。
州のエージェント/ブローカー免許保持者は150,000人。 そして、"保険金詐欺の首都"の名を持つ程、保険に関わる不正や詐欺による経済的損失額が最も大きい州でもある。
州保険法では、顧客に誤解を生じさせるような保険の勧誘を含め、エージェントの違反行為を禁じている。
エージェントに対する苦情の報告を受け取った場合、州保険庁は調査後、エージェント免許の一次取消、永久取消、或いは罰金を徴収する権限を有している。
過去の詐欺の実例として:
(例1)
1990年の始め、JWH保険サービス社は、運送会社約25社の為に、「First
Assurance and Casualty Co.; FACC」というカリブ諸島(オフショア)の非認可保険会社(Non-Admitted
Insurer)の自動車保険を取り付けた。 バーク&サン運送会社もその一社である。
1993年二人姉妹の乗った乗用車がバーク&サン運送会社のトラックと衝突、トラックの運転手に過失があることが判明した。
重症を負った姉妹の家族はその運送会社を訴えた。 6が月後、運送会社のバーク社長は年間5万2千ドルの保険料を支払ってきた保険証券がただの紙切れでしかないことを知った。
3百万ドルの賠償金額を支払う為に、バーク氏は23年間経営してきた会社を売却せざるを得なかった。
姉妹の家族には2万ドルを提供するのがやっとであった。
バーグ氏がFACCという非認可保険会社の為に負った損害は2千万ドルであった。
現在、姉妹の家族はJWH保険サービス社を訴えている。
バーグ一家はアイダホ州に引越し、新しいビジネスを始めている。
FACCは1千6百万ドルの未払損害保険金を残し1993年倒産。
(例2)
アラン・サーフはある生命保険会社のエージェントであった。
コミッションを稼ぐ目的で契約を、他の保険会社(保険料はより高く、担保条件はより悪い)に移管した。
被害者数500人。
コミッションと取る為に不当に契約を移すこのやり方は"Churning"と呼ばれている。
1992年サーフは解雇された。
(例3)
10年前、クリステンセン、ライリー、ピアスという3人のエージェントが、
シリコンバレーのアンダーソンという資産家(資産額4千万ドル)の為に生命保険を取り付けた。
100万ドルを超えるコミッションは、首謀者であるクリステンセンが80万ドル、ピアス40万ドル、ライリー20万ドルに分配された。
後、セントラル生命保険会社は、
アンダーソン家と保険会社を欺いた(2百万ドルの保険料の中からコミッションとして多額の金額を騙し取った)として3人のエージェントを訴えた。
裁判では、ピアスとクリステンセンの賠償金額は合計で240万ドルであった。
ライリーの賠償金額は570万ドル、
ライリーは上訴し、保険会社はより低い金額で和解した。 彼等のE&O保険(エージェント/ブローカー専門家職業賠償責任)引受会社が賠償金を支払った。
又、セントラル生命保険会社は、アンダーソン家に保険料免除の保険契約を提供した。
〈アンダーソン家の契約の背景〉
1988年、アンダーソン家の資産は危機に直面していた。
前年に亡くなったコンピュータ機器会社の創始者であるレイド・アンダーソン氏はトラストを通じて、家族に遺産を残した。
しかし、アンダーソン氏の70才の妻、ポーリーンが亡くなった時、遺産税として、2千5百万ドルを支払わなければならないことになっていたからだ。
保険エージェントのクリステンセンとライリーは、税金軽減の方法としてポーリーンンに1千万ドルの生命保険を購入することを勧めた。
子供達(二人の息子と娘)も同意した。
保険料は2百万ドルの一括払いで25年の満期。
ポーリーンが25年以内に亡くなれば、税金はその生命保険金で負担できるというものであった。
アンダーソン家の長年の保険エージェントであったクリステンセンを信じて契約に応じた。
2年後、保険金額を1千百万ドルに増額することにした。
エージェントは追加保険料のコミッションを再び懐にいれた。
しかし、セントラル生命保険会社は契約書に不備があることを発見した。
それは契約が追加の保険料を支払わなければ数年後に無効になってしまうというものである。
その旨を通知した手紙に一人の息子、ジョン・アンダーソンの署名を取り付けなければならなかった。
保険会社はエージェントのクリステンセンを通じて署名をとりつけた。
別の息子、トム・アンダーソンはエージェントに不信感を抱いていた。
アンダーソン家が受け取った書類に多く矛盾する点があったからだ。
1993年、アンダーソン家はクリステンセンに説明を求めた。が、氏は約束した日に現れなかった。
同家はセントラル生命保険会社に連絡した。 そこで25年満期だと思っていた契約がもうすぐ満期になるということが判明した。
アンダーソン家は保険料免除の新しい契約を発行してもらうことで和解した。
裁判では、3人のエージェントが書類を偽造したことが明らかになった。
25年満期のはずの保険契約は実は7年満期の契約であったこと、7年後に再び保険料を支払わなければ契約は無効となってしまうことが。
アンダーソン家に契約の本当の中身を知られることを避ける為に、
エージェントは保険会社に、アンダーソン家が引越したと虚偽の報告をしていた。
引越し先の住所はクリステンセンの秘書、ロビン・サンダースの自宅であった。
彼女は、法廷で、ライリーが企みについて冗談を言ったり、
ポーリーンが亡くなる前に不正がばれてしまうことを心配していた、と証言している。
裁判においてのクライマックスは、保険が数年で満期になるという通知に対する承認の署名が偽造である、というアンダーソン家の訴えであった。
しかし、署名がライリー又はクリステンセンの筆跡であるかどうかは証明されなかった。
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現在、3人の内ピアスが最も成功しており、ラッセル・ピアス・マネジメント・サービス社の社長として、年200万ドルの収入を得ている。
ライリーはコミッション全てを失い破産した。
現在ピアスの下でコンサルティングの仕事を行なっている。
クリステンセンは、今も尚プルーデンシャル、メトロポリタン、ニューヨークライフのエージェント業務を行なっている。
アンダーソン家がこの訴訟に費やした費用は15万ドル。
訴訟にそれだけの金額を費やすことのできた彼等は幸運であると、語る。
このような不正に対して訴訟費用を工面できない被害者もいるであろうに、と。
ただ、3人のエージェントが現在も直ビジネスを続けていること、彼等が州保険庁によって免許を剥奪されていないことが不思議であり、腹立たしいと言う。
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