過去の記事より

● 米国クラスターについて - その@

IIAA(全米独立エージェント協会)の調べでは現在米国には200のクラスターが存在している。 メンバー数5社のクラスターから250社と規模も様々である。 形態や機能もそれぞれ異なり、変化し続けている。 しかし、殆どのクラスターに共通していえることは:

「2社以上のエージェンシーが何らかの業務、及びマーケティング(注1)を目的として集団を形成すること」である。

(注1)     マーケティング=マーケティングという用語は保険業界に於いては通常、@契約を引受ける保険会社を見つけることをいう。 エージェント/ブローカーが顧客の為に顧客のリスクを引受ける会社を探す、という行為である。 従って"マーケット"とは"保険会社"を指す。 ちなみに米国には3,000社の損害保険会社が凌ぎを削っている。 一方、「ターゲットマーケティング」「ニッチマーケティング」という場合のマーケティングは、他業界と同様の意味で、A一般消費者に商品の存在を知らせること、である。 上記の場合は勿論@の意


クラスターを設立する理由

米国においてクラスターの設立は小規模エージェンシーの生存の一手段である。

米国の保険会社は年間の"最低取扱収保"を定めており、要件を満たさないエージェンシーは委託契約を解約されてしまう。 近年、この"最低取引収保" が上昇傾向にある。 個人保険、企業保険それぞれ25万ドルから100万ドルに設定される。 2百万ドル、4百万ドルに設定しているナショナル・ライター(複数の州で営業を行なっている大規模保険会社)もある。 小規模エージェンシーとの委託契約を維持することは保険会社にとってはコストでしかないのだ。

最低収保要件を満たすことのできない小規模エージェンシーは、取引保険会社数を減らさなければならない。 しかし、取引保険会社数を減らすということは、顧客に対し商品の選択幅を提供できなくなり、独立エージェンシーのしての"基本原則"を失うことになる。 即ち、小規模のエージェンシーは取引収保を増大させ、マーケット(取引保険会社)数を維持する為に、クラスターを形成するのである。

クラスター・コア(クラスター本部/中核)は保険会社との関係においてはMGA(管理総代理店)と一部同様の役割を果たす。 MGAとは、保険会社の代理人として、州の営業認可をとり、アンダーライティング、保険金支払、再保険手配、サブ・エージェントの委託契約締結に携わる個人又は法人である。 MGAは、保険会社から年間取扱保険料総額に対する一定割合の報酬を受ける。

クラスター・コアが保険会社との関係においてMGAの業務と類似している点は「クラスター・コアが集積された保険料を個々のエージェンシーに代って保険会社と取引する」からである。

クラスターの実例を挙げながらその実状を説明してみよう。

【ケース1】

インナー・シティ・アンダーライターズ

1995年、シカゴのコミュニティー保険センター社のモーゼス氏は、50余のエージェンシー社と、クラスター管理会社として「インナー・シティー・アンダーライターズ」を設立した。 マーケット(保険会社)へのアクセスが非常に限られている小規模エージェンシーとしてはそうしなければ自社を売りに出してしまう以外に選択の余地はなかったのだ。

現在、インナーシティー社は、取引保険会社5社との保険料の管理及び分配を行なっている。 ちなみに5社とは、エトナ/トラベラーズ、ケンパー、チャブ、セント・ポール、ハートフォードである。 インナーシティー社は"エージェンシー個々の独立性"を尊重しながらマーケット(保険会社)との取引場所を提供している。

"エージェンシーの独立性" − これがクラスター形成が合併とは異なる点である。合併とは、複数のエージェンシーが統合して新しい別の組織を設立することである。 合併によりエージェンシーはそれぞれの自社組織を失う。 すべての資産が新しく設立された組織の所有となる。 保険契約の満期更改権(注2)も当然新組織の所有となる。

(注2)    満期更改権(Ownership of expirations): 複数の保険会社と委託契約を結んでいる独立エージェンシーの満期更改権の所有は米国エージェンシー制度の根幹ともいえる。 満期更改権とは、'顧客データと顧客の保険付保に関する決定権を第一に知る権利'とでもいったら良いだろうか。 保険会社は顧客データを(その契約をもたらした)独立エージェントの許可なく他エージェントに公開してはならない。 そして、独立エージェントは顧客の意向に従ってA保険会社からB保険会社に契約を移管する。 又、独立エージェントは満期更改権を資産として他者に売買することができる。


一方、クラスターを形成しても個々のエージェンシーは自社の経営、及び管理を維持する。 新規契約の開拓、社員の採用/トレーニング、顧客サービス、クレームサービスは以前と同様に自社で行われる。 満期更改権も維持する。 クラスターのメンバーとなることによって、 保険会社との取引関係だけをクラスター・コアを通じて行なうようになるのである。

クラスター・コアの主たる業務とは、従って、保険会社との委託契約の取決め、手数料の交渉、預貯金口座の管理、保険会社への保険料の支払、 個々エージェンシーへの手数料の分配である。


【ケース2】

サテライト・エージェンシー・ネットワーク・グループ

大規模の国際ブローカーは吸収/合併によって益々巨大化していく。 小規模のエージェンシー(従業員数1名から9名)はこれら大規模ブローカーに太刀打ちできない。 消滅していくより仕方がないのだろうか?

1980年始めエージェンシーのオーナー、ジェームス・マシロ氏は、先行き不安の状況にあった。 小規模で取扱収入保険料が少ないことから主要な保険会社と取引ができない。 既存の保険会社との委託契約も最低取引収保上昇のため、維持できない状況にある。 顧客の忠誠も保険料という数字の壁には勝てない。 又、マシロ保険エージェンシーとしてニューハンプシャーに拠点をもっていてもその他の都市での営業機会は無い。 多額の資金を必要とせずに、又、他のエージェンシーを買収することなく支店を設立することは不可能なのか?

サテライト・エージェンシー・ネットワーク・グループ設立のアイデアは1982年のIIAAのニューハンプシャー支部会議で提案された:

"小規模のエージェントが生き延びる方法は?"

マシロ保険エージェンシー社と同地区エージェンシーは協力して、サテライト・エージェンシー・ネットワーク・グループ(SAN)を設立した。 これはエージェンシーのネットワーク会社である。 マシロ氏がSANにマーケット(保険会社との取引場所)を提供する。 他エージェンシーはSANのマーケットを利用する。 エージェンシーは新規契約の獲得及び顧客サービスのみに集中することができる。

メンバーエージェンシーはSANに対し報酬(fee)を支払う。

今や衛星(メンバーエージェンシー)数はニューイングランド地方に100社。 年間の取扱保険料は、1億2千万ドル。 取引保険会社は40社である。

現在全国規模のネットワーク構築を進めている。 1995年には31州に衛星メンバーをもつまでになった。 現在141社。 最終目標は1998年末までに収保を10億ドルにすることである。


【ケース3】

オール・マス・グループ

オール・マスグループの設立の最初の目的は知名度を高めることであった。

1989年オールステート保険会社(ダイレクトライター)は自動車保険の伸び悩みを理由としてマサチューセッツ州から撤退した。 同社の専属エージェント(注3)25名は独立エージェントとなり、グループを形成した。 そして、オールステート社の専属エージェント時代に扱っていた契約者へのサービスを継続しようとした。

(注3)     専属エージェントは契約の満期更改権を所有していない。 従って、専属エージェントが雇用人であるダイレクトライターを辞める場合、 契約は保険会社に残さなければならない。 この場合、オールステート社は専属エージェントに契約を譲渡(売却)したのであろうか。


最終的に彼らは契約の90%を維持することができた。

オールマス社は当初、広告、宣伝を第一の目的として集まったクラスターであったが、後新しいメンバーも加わりマーケット(取引保険会社)も増えた。 現在は保険会社5社と委託契約を結んでいる。 アルベラ・ミューチュアル、ファイアマンズ・ファンド、ジョン・ハンコック、メトロポリタン、クウィンシー・ミューチュアル社である。

これら5社の最低取引収保要件を満たしているメンバーエージェンシーは、保険会社と直接取引を行う。 要件を満たすことができないため委託契約を独自で締結することのできないエージェンシーはオールマス社(クラスター・コア)を通じて保険を取付ける。 そして手数料は75%/25%で分配される。

オールマス社は、独立エージェンシーがダイレクトライターと競争する為には宣伝、広告に力をいれなければならないことを知っている。 従って、 メンバーエージェンシーは各自の事務経費を節約し、その分をオール・マス社の宣伝に充当させた。

専属エージェントが独立エージェントとなり、管理総代理店(MGA)と類似の機能を持つ独立した機関を作ったという珍しいケースである。


 

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