コスト競争、商品開発競争(2012年4月)

コスト競争、商品開発競争


米国の保険流通は、社会変化に伴い、コスト競争と商品開発競争によって形作られてきた。

現在、米国で最も大きい保険会社は、1920年代初め、農業に従事しながら保険を販売していたG.J.マヘール氏によって設立された。彼は農牧業従事者の自動車保険を、シカゴ住民よりも低い保険料で引受けるよう保険会社に掛け合った。田舎の方が損害率は低いのだから、都会よりも低い保険料で引受けるべきだと思ったのだ。しかし保険会社は彼の言い分を受け入れなかった。そこで彼は自ら相互会社ステートファームを設立したのである。

ステートファームはイリノイ州の田舎で、専属のエージェントを通じて、農牧業従事者に自動車保険を販売した。1921年の連邦高速道路法や56年の連邦補助高速道路法の制定によって、米国の車社会化は進んだ。又、1945年以後、第二次大戦後に帰還した復員兵が郊外に車と住宅を持つようになった。そして40年代、50年代はTV普及に伴いTVコマーシャルを活用した。同社のTVコマーシャルのキャッチフレーズ『良き隣人のごとくステートファームが駆けつけます』は、視聴者の脳にしっかりインプットされた。TVが珍しかったその頃、皆、真面目に(コマーシャルでさえ)見たのでである。メディアに慣れきった現代人とは違い、当時の視聴者はTVの情報にナイーブ(純情)であったということです。「名犬ラッシー」や「パパは何でも知っている」の時代のアメリカですね(この意味がわからない人はわからなくていいからね)。

ステートファームは既存の保険会社よりも低い保険料(損害率が低い)、低い事業費(田舎なので社費も手数料率も低い)で保険を引受けた。そして、時代の波(高速道路、テレビの普及、第二次大戦後のベビーブーム)に乗った。戦略も上手かった。即ち、特定地域のエージェント数を限定したのである。地域人口、産業、面積を基に、エージェント数を決定した。それによって仲間同士が、無駄な、客の取り合い競争をしなくて済みますからね。

即ち、会社設立の目的(公平さを提供)が正しく、時代(市場拡大、TV普及)の波に乗り、戦術(エージェント数を限定する)が優れ、業績(損害率、業務費率)が良いのだから成功しないはずはない。同社は、1955年の時点で、全米損保収保で20位にも入っていなかった。が、1965年に首位に浮上した。10年間で、20 番外からトップに駆け上がったのである。以来、現在に至るまでその座を維持している。

一種類の書式を扱うステートファームの専属エージェントに対し、複数書式を扱う独立エージェントの業務効率は悪い。コストが高くなる。その結果、独立エージェントはステートファームに契約を奪われていった。

そこで、専属との競争に立ち向かうべく、1960年代後半、独立エージェント団体は標準書式の開発に着手した。70年代末に標準書式完成。80年代には書式の電子データ化を進め、更に、複数保険会社対応の「エージェンシー管理システム」の開発に努めた。

一方、ステートファーム。伸びは90年代半ばから停滞している。理由は次だ:

 • 専属エージェントを選択する消費者数の限界;即ち、保険料を比較して購入したいという消費者層に、専属は食い込むことができない。
 • ステートファームが市場を都会にも拡大した段階で、損害率と事業費が他の保険会社と同レベルになった。
 • ステートファームよりも低いコストで販売する直販会社、例えば、ガイコが現れた。
 • 標準書式と汎用のエージェンシー管理システムのおかげで、コストによるハンデを免れた独立エージェントが契約を取り返している...

要は、商品開発競争とコスト競争の中で米国の保険会社やエージェントは淘汰されてきた、ということです。

しかし、日本の業界は、このような公正さを求めた商品競争やコスト競争をやってこなかった。社会変化に伴う商品開発やコスト調整による競争を。ディーラー代理店や機関代理店やただただ代理店を増やすといったコスト無視の経営を長年続けてきた。政府が護送船団でいこうと決め、1996年までどの会社も同じ商品、同じ値段。ああ、自由化をもっと早く進めるべきであった、と政府を責めるのは易しいが。

それにしても規制によって競争を免れ、しかし、利益は守られてきたそのツケはどこかで払わなければなりません。

(インスウォッチ、2012年4月掲載)


 

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