クロスセリング(2011年11月)

クロスセリングの実践


米国の消費者−法人も個人も−は、大抵一社のエージェンシーを通じて保険を付保する。全ての保険の手配を、一エージェンシーに委託する利点があるからだ。いくつかあげよう。

 • 担保内容に‘重複’や‘隙間’が起こることを防ぐ。例えば重複。D&O(会社役員賠償責任)やEPL(雇用慣行賠償責任)など賠償責任保険の担保範囲には、重複部分が発生する可能性があり、無駄な保険料を支払うことになりかねない。また、どの保険にもカバーされていない隙間が発生する危険性もある。そのような間違いが起こらないように、リスクを包括的に査定させ、隙間や重複のないカバーを手配してもらうのである。
 • 事故発生時、一社のエージェンシーに連絡すればよい。例えば、工場での爆発事故で従業員が傷害をこうむり(労災)、建物や社有車が破損し(財物と自動車)、第三者にも損害を与え(賠償責任)、訴訟額が高い場合(アンブレラ)場合、複数の証券が対応することになる。これらの保険を担当するエージェントが異なっているとクレーム対応に手間がかかる。
 • 複数の保険を一社または少数の保険会社に付保することにより、担保内容や保険料についての保険会社との交渉が有利になる。
 • 個人顧客においては、ホームオーナーズ保険と自動車保険を同一保険会社に付保することにより保険料の割引がある。

勿論、例外はある。例えば、エージェンシーが見込み客に販売攻勢をかけている期間である。全保険を既存のエージェンシーから一挙に移してくれることが望ましいが、そうしてもらえるとは限らない。たとえ既存エージェンシーのサービスに不満があったとしても、新しいエージェンシーがより良いサービスを提供してくれる保証はない。従って、先ず、一種類の保険、例えば、労災とか、アンブレラとかを移し、一年間様子をみる。そして、サービスに満足すれば残り全ても移す、といった具合。従って、エージェンシーには、一種類の保険のみ任せられている顧客や、保険証券のいくつかが競争相手に扱われている顧客がいるものである。要するに、全種目を獲得するまで過程、または、残り全てを他社に奪われてしまうかもしれない(!)過程、にある顧客、ということだ。

別の例外としては、引受会社を見つけるのが困難な保険、例えば、E&O(専門家職業賠償責任保険)を別のエージェンシーを通じて手配するケースである。

このような例外を除いては、法人も個人も、一エージェンシーに委託することの利点と重要性を認識しており、一社にリスクの見直しと保険手配を委託するのが一般的である。日本のような機関代理店は存在しないので、自動車保険はディーラー代理店を通じて付保、といったような不都合はない。

従って、法人に対するクロスセリングとは、損害保険の法人顧客に、医療や年金などの団体保険契約を取り付けることをいう場合が多い。しかしこれが難しい。何故か?大抵、法人において福利厚生を担当する部門と損害保険を担当する部門は異なるからだ。損害保険は財務部門(大手企業では“リスク・マネジメント部門”がある)で、福利厚生は人事か総務だ。財務部門責任者から損害保険の契約を取り付けたとしても、人事や総務部の責任者に紹介してもらえるとは限らない。一方、エージェンシー側にも問題がある。損保と生保のプロデューサー(新規顧客開拓責任者)が警戒するのである。例えば、損保プロデューサーが新規を獲得したとしよう。その契約者を生保プロデューサーに紹介し、団体医療・生命・年金保険の契約も獲得できれば、エージェンシーにとっては喜ばしいことだ。しかし、損保プロデューサーは、その契約者を生保プロデューサーに紹介したがらない。理由は、生保部門のサービスに不備があったために、顧客を怒らせてしまいその法人契約を失うことがあるからだ。それを損保プロデューサーは恐れるのである。生保プロデューサーが法人契約を獲得した場合もしかり。生保プロデューサーも、損保部門のサービスの失敗によって顧客を失うことを恐れる。

エージェンシー経営者は、生損保両部門のプロデューサーが、互いの法人顧客を紹介するように、プロデューサー(A)が開拓した顧客を、他部門のプロデューサー(B)に紹介し、契約を獲得できた場合、プロデューサー(A)にもボーナスを提供する制度を用意している。そして、一旦、獲得した顧客を、サービスに落ち度があったことによって失うことがないように、CSR(顧客サービス責任者)のトレーニングに力を入れるのは言うまでもない。

(インスウォッチ、2011年11月掲載)


 

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