シン・ダン保険の成功要件(2010年12月)

シン・ダン保険の成功要件


エージェンシー経営において大切なことは従業員全員が統一した目標を持つことである。目標は「顧客サービスの改善」であったり「売上げ5%アップ」であるかも知れない。ノースカロライナ州クィーンズボロに拠点をおくシン・ダン保険は「クロスセリングの推進」を目標とした。

1927年設立のシン・ダン保険は、90年代後半から2000年代始めにかけて進めた合併(最終的に5社を吸収合併した)によってに拡大した。新しい部門が作られた。企業損害保険、個人損害保険、従業員福利厚生プランの3部門に加え、リスクマネジメント、クレーム、ウェルネス(注1)、二ヶ国語対応などである。しかし、各部門がそれぞれの領域に閉じこもってしまい、社全体の情報の流れが滞ってしまった。クロスセリングは従業員全員の協力なしには成功しない。そこでシン・ダン保険の経営陣がとった方法はプロデューサー(新規顧客開拓担当者)が他部門のプロデューサーに顧客を紹介し成約した場合、紹介したプロデューサーにも手数料の一部やボーナスを支給する方法である。プロデューサーが他部門のプロデューサーに顧客を紹介し、契約に結びつくと棒グラフに色を塗る。手数料収入1千ドル(10万円)に付き1インチ塗り、36インチを塗り終える、即ち、他部門に紹介した契約の手数料収入が3万6千ドル(360万円)に達すると3日間のゴルフ旅行と1千ドルのボーナスが支給される。他部門に紹介した契約の手数料が7万2千ドル(720万円)に達すると受取るボーナスは2千5百ドル(25 万円)に引き上げられる。年間に10数名が資格対象者となる。

同社の報奨制度の優れている点は、当該契約が同社で維持される限り、その手数料収入の10%が紹介したプロデューサーに支払われることだ。顧客企業に対し損害保険の全種目と従業員福利厚生プランの全種目を扱い、顧客の満足を維持するには、両部門のプロデューサーとCSR(顧客サービス担当者)の多大な努力が求められる。もし、一種目、又はいずれかの部門が顧客対応に失敗したら片方の部門の契約も失ってしまう危険性がある。担当者全員のコミュニケーションと協力が必須である。

以上は、IIABAの機関紙「IA」の04年6月号に掲載されたシン・ダン保険のインタビュー記事からの抜粋である。当時は従業員数84人、売上9億9千万円であった。先日、別の業界紙に「非上場のエージェンシー・トップ100社」がリストアップされており、シン・ダン保険は89位であった。従業員は138人に増え、売上げは17億円に上昇していた。この景気後退の時期、加えて長引くソフトマーケット(保険料が下降傾向にある市場状況)において、何故、このような成長が可能なのだろうか?

同社ウェブサイトのオーナー/経営者の写真を見た時、シン・ダン保険の拡大を促進したのは、彼らの「牽引力の手柄」ではないか、と思った。04年当時12人であったオーナー/経営者は現在、21人に増えている。同社の業績に利害を持つ者が21人いる、ということだ。100人以上のスタッフ全員を、ひとつの目標に向かわせ、協力を促し、継続させるにあたり、この21人のたゆまなき挑戦と情熱とエネルギーがあったのだろう。

同社は合併による拡大後、『Good to Great』(注2)という本を参考に経営の見直しを図った。この本は過去15年間株式市場で高い業績を挙げている11企業を分析、成功要因を探ったものだ。この本を参考にして戦略変更を行ったわけである。オーナー/経営者全員が同じ経営哲学を信じるきっかけとなった優れた参考書に出会えたこともシン・ダン保険の成功を助けたのだろう。

(注1)ウェルネス:生保分野におけるリスクマネジメント。ウェルネス部門は、顧客企業の従業員への運動奨励、栄養管理、禁煙推進、ストレス管理などを顧客企業に提案する。

(注2)「Good to Great」ジェームズ・コリンズ著:日本では、「ビジョナリー・カンパニー2:飛躍の法則」の題で日経BP社から2001年発行。1,435社の40年間の業績を分析、11社を選んで成功要因を挙げている。

(インスウォッチ、2010年12月掲載)


 

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