TPP(日本保険市場の真の自由化)(2013年8月)

日本の保険市場の“真”の自由化


8月19日、日本と米国間で経済自由化についての話合いが始まった。米国側の要求の一つに保険市場の開放が含まれている。たまたま、日本と米国両方のメディアでこれについての報道を読み気づいたこと、以下です。

8月19日のマイケル・フロマン通商代表と日本政府との話合いについて、米国の業界紙は、次のように報じていた:

「TPPに関する交渉において、商品の85%の関税を段階的に廃止することを厭わない(is willing to)という日本政府による報告は、交渉における幸先の良い一歩である、と、フロマン代表は述べ、これまでは二国間の話合いに隔たりがあったことをほのめかした」

“is willing to”という表現には、本当はしたくないがする、という意味がある。即ち、「日本政府は、本当は、市場を開放したくないけれど、米国に押された結果、段階的に市場を開放していくだろう」と解釈できる。この記事を読んだ米国の保険業界は、フロマン代表は日本政府に対し強気で交渉しているな、と判断するだろう。

もう一箇所、交渉における課題についてフロマン代表が記者会見で答えた部分、米国の業界紙には次のように書かれている:

「東京での日本政府との話合いについて『どこの国でも慎重に扱うべき分野があるが、TPP交渉において対応すべきでしょう』とフロマン代表は伝えている」

一方、この部分について日本の読売ウェブでは:

「フロマン代表は『日本にセンシティビティー(慎重に扱うべき分野)があるのは理解している。現実感を持って対応する』と述べ、交渉の余地があることを示唆した。」

米国業界紙では、「慎重に扱うべき分野があるが、交渉によって対応すべき」と言い切っているのに対し、読売ウェブでは、「フロマン代表は、『日本の現実を踏まえて、慎重に対応する』と言っている」と報道している。

実際のフロマン代表の発言がどうであれ、この業界紙を読んだ米国保険業界の人々は「フロマン代表は強気で交渉に臨んでいる。もう少し強く圧力をかければ、自由化の日は近いな。もっとロビイ活動しよう!」と思うかも。一方、日本の消費者は「そうか、交渉の余地があるのか。あきらめないで抵抗しよう」と思うかも。

ただ、まあ、簡保生命の資産をねらう米国の金融業界は、フロマン代表の記者会見での発言の如何に関わらず、着々と日本市場参入の準備をしているんだろうなあ。一方、日本政府は、フロマン代表の『日本の現実云々』を額面どおり受け取るわけでなく、交渉の準備をしてるんだろうなあ(してるよね)。

それにしても、日本の保険市場が自由化されていないことの証の一つは、機関代理店の存在でしょう。大中規模企業の機関代理店は、たいした努力もなく(してるところもあるのでしょうが)、親会社から契約をもらい、親会社の系列保険会社(系列がないところもあるでしょうが)に保険を付ける。その結果、企業保険市場の保険料と手数料は、系列(またはグループ)の外に出て行かない。要するに、機関代理店がいるために、独立系乗合代理店による企業損害保険市場への参入が著しく阻まれている。

市場が自由化されているという意味は、市場の関係者全員が「公平」且つ「公正」に事業に参画できるということではないでしょうか?しかし、機関代理店がある限り、系列会社の既得権益はしっかり守られてるよねえ。簡保生命を海外保険会社に開放する前に、機関代理店制度を廃止して、大中規模企業の保険市場を独立系乗合代理店に開放すべきではないですかね。

また、仲立人制度とは名ばかり、仲立人になるためのハードルを高くし、可能な限り、仲立人を増やさず、仲立人が活躍できるような市場も用意しないという現実もあるし。あっ、ディーラー代理店の存在という難題もありますね。

突然、話は変わります。8月半ばにスロバキアを旅行しました。日本は「成功した社会主義国」と言われていますが本当ですね。スロバキア国民の政府や権力に対する見方は、日本国民(私も含め)のそれと似ています。要するに、政府とか権力に対して、「戦っても無駄。彼らに何いっても通じないんだよ」という思いがある。要するに、あまりにも長い間、権力の管理下にあった人々の「あきらめ」感情である(無い?うらやましいです)。スロバキアは1千年ほどハンガリー王国の支配下にあり、更に、近年はチェコスロバキアの一部として共産党体制下にあった。つい、日本の代理店がスロバキア国民に重なり、日本の保険会社/金融庁が、ハンガリー王国とソビエト社会主義共和国に重なってきます。暑さのせいでしょうか? 初めて訪れた旧社会主義国で受けた印象のショックのせいでしょうか?

(インスウォッチ、2013年8月掲載)


 

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