米国リポート (2002年11月)

独立エージェントの権限


米国の独立エージェンシーは複数の保険会社とエージェンシー委託契約を結び、多様な商品を扱っている。顧客に商品と値段の選択幅を提供できることが独立エージェンシーとしての最大の価値であるからだ。代申制度は無いので、どの保険会社と、又、何社と締結するかについての決定権はエージェンシーにある。保険会社としては、エージェンシーが年間最低取引収保を超える保険料を計上してくれさえすればよいので、エージェンシーの他社との取引については関与しない(関与できない)。

『自由に複数の保険会社と委託契約を締結できる』が、年間最低取引収保要件を満たさなければならないので、その数はおのずと限定される。20年前は10万ドル程度であったが、現在多くの保険会社が最低収保を50万ドル、百万ドル、又は3百万ドルに引上げている。各社の最低取引収保要件を満たすためには取引会社を限定せざるを得ない。

  一方、プロフィット・シェアリング・コミッション制度も取引会社数を限定する要因となる。エージェンシーの年間取引収保、損害率、成長率、継続率などを基に年に一度提供される報奨金である。エージェンシーとしては、類似の商品を取扱っている保険会社が数社ある場合、報奨金を考慮すると、一つ保険会社に契約を集中させる方が得となる。

  いずれにせよ、委託契約の締結に際し、保険会社の選択と取引会社数の決定ついては、エージェンシーが各自の経営方針と戦略に沿って、最低取引収保、保険会社の財務力、クレーム対応、取引の容易さ、担保内容交渉時の柔軟性、等を考慮しながら決定するものである。

  独立エージェンシーは又、自由に合併や買収を行なう。流通チャネル間の競争が激化し、エージェンシーの大型化が進み、2001年のエージェンシー同士の合併は60件に上った。買収に際してエージェンシーの評価額は、年間手数料収入、契約内容、取引保険会社数、営業年数、成長率等によって決定される。企業保険、個人保険、生命/医療保険それぞれの手数料収入割合、特殊な業界や顧客層に焦点を当てた商品の取扱、リスク・マネジメント・サービス提供の有無も評価額決定の要素となる。質の良い契約を扱っているが、継承者のいないオーナーは、売却によって老後の収入保証を得ることになる。

  委託契約締結の自由やM&Aの自由はエージェンシーが‘独立請負業者’であり、満期更改権(被保険者リスト及びデータ)を、エージェンシーが所有しているからだ。この原則の基礎は1900年代の初めに築かれた。1905年に保険会社とエージェントの間に起こされた訴訟で、満期更改権(被保険者リスト及びデータ)はエージェントに帰属するという判決が下された時である。裁判はニューヨーク州ヨンカーズ郡のエージェント、シップマン氏の契約を買い取ったスラード氏に対し、ナショナル火災保険会社がその保険証券の写しと関係書類のすべてを引渡すよう要求したことが発端である。書類の引渡しを拒否したスラード氏を保険会社は訴えた。保険会社は訴状の中で、‘スラード氏がシップマン氏から買い取った保険契約に関する全書類は保険会社の所有にある’と主張した。更に、スラード氏がシップマン氏の元契約者に売込みを行なうことを禁ずる命令を出すよう裁判所に訴えた。裁判では「IIABA(アメリカ保険エージェント&ブローカー協会)」の前身である全米火災保険エージェント協会が、全米のエージェントの協力を得てスラード氏を勝利に導くことができた。以来、委託契約書には、満期更改権について、‘貴社の記録文書と満期更改権は貴社の財産である’という趣旨の記載が含まれている。他保険会社との委託契約締結の自由については、エージェンシーの権限の項にその旨記されている場合もあるが、エージェンシーは‘独立請負業者’であるという表現が使用されている契約書が多い。独立請負業者(エージェンシー)は注文者(保険会社)の選択は自由のはずである。

(2002年11月インスウォッチ掲載)


 

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