米国リポート (1999年4月)

● 代替マーケットの新しい顔

- 現在、代替マーケットは、損害保険の一般(企業)物件のほぼ半分を占めている。 そして、それは益々増加しつつある -

"自家保険の変形"、 別名、"代替マーケット"は、発展し続けている。 かつては大規模の標準外リスクのための存在でしかなかったこの代替マーケットは、今や、 米国の損害保険の企業分野、 総額にして2千8百50億ドルのほぼ半分を占めるまでに拡大した。

過去30年間の代替マーケットの成長 - 特に1980年代の始めから1990年代の始めにかけて - によって、企業損害ビジネスにおけるリスクファイナンシングの様相は大きく変化した。 ただ近年はソフト・プライシング(保険料の低下)によって伝統的な保険付保という方法がより魅力的となっている。 しかし、 そのことが正に、 企業損害ビジネスの"シェア"拡大を求める代替マーケットを益々発展させる原因にもなっているのだ。

昨秋フィラデルフィアで開催された「プロデューサーの為のフォーラム年次大会」で、 デンバーに本拠地を置くRiskCap社の社長、マイケル・マーフィー氏は次のように語った:

"代替マーケットは人々をして将来に対する不安や動揺を抱かせる。 そして、代替マーケットの発展に伴い業界は大きく再構築されようとしている"と。

代替マーケットは保険会社によって提供される伝統的なリスク移転に代るメカニズムである。 例としては、キャプティブ、レンタ・キャプティブ、リスク保有グループ(Risk-retention Group)、その他自家保険の要素を含むリスク・ファイナンシング等が挙げられる。

代替マーケットの発展は初期に於いては、急激な保険料の上昇と労災保険市場における混乱がその大きな要因であった。 最近の代替マーケットの拡大は、 全く反対の原因に由来している。 即ち、 保険料の低額に伴って、保険会社が企業リスクの為に新しい代替マーケット・プログラムを提供しようとしているのだ。

1994年から1997年にかけて米国の企業損害保険マーケットは1千3百6億ドルから1千5百75億ドルに拡大した。 この伝統的なマーケット(保険)は市場全体の52%を占めている、とセジュイック社の上席副社長、チャールズ・フィスク氏は語る。 残りの48%にあたる1千2百80億ドルは代替マーケットで占められているが、これは1994年から1997年にかけて急増した。

「プロデューサーの為のフォーラム」や後のインタビューにおいて、マーフィー氏やその他業界の専門家が自家保険マーケットの現状について述べているように、 自家保険マーケットは、伝統的な保険会社のビジネスに対する挑戦であり、 業界の将来の発展に大きな影響を与えるだろう。

例えばセジュイック社のフィスク氏は、 企業損害保険の昨年の業績が、 前年の1997年より2.9%上昇し、最高額、1千6百22億ドルに達することを予想していた。 氏は1998年のほぼすべての代替マーケット・メカニズムが引き続き拡大することも予測していた。 ただ、保有(Retention) 、プール、及びトラストを除いてはであるが。"現在は保険料が低額であることから、 殆どの企業が(リスクの)保有よりむしろ保険の購入を選択している。 これは初めは特約再保険に於いてその傾向が見られたが、この状態は続くであろう"

保険会社の代替マーケット進出への決定的な要因が、ソフトマーケットであることは明らかである。 一方、業界の吸収/合併がもたらす混乱もまた重要な要因であることをフィスク氏は指摘する。 1997年の吸収/合併は263件、買収総額は1千3百47億ドルで、これは業界の剰余金総額の38%にあたる。 A.M.ベスト社のデータによれば、 1998年9月までの損害保険業界の吸収/合併は75件、取引総額は1千7百20億ドルに上った。 しかし、この数字は、トラベラーズ/シティー・コーポの合併など、生命保険業界におけるそれと一部重複する。 ちなみに、1994年の吸収/合併の取引総額は700億ドルに過ぎなかった。

キャプティブが拡大をリードしている

代替マーケットの中でも、最近急増しているのはキャプティブである。 フィラデルフィアの"コモンウェルス・リスク・サービス社"によると、年に200の新キャプティブが設立されている。 1998年の終わりにはバーモント州だけで40の新しいキャプティブが設立された。 キャプティブとは親会社の保険を引受ける保険会社である。

"拡大の規模は殆ど爆発的であり、マーケット・サイクルの歴史的な跡を形作っている"とマーフィー氏は言う。 "現在世界のキャプティブ総数は約4,000社と予想されるが、正確ではない為、取扱保険料総額は、明らかになっていない" とマーフィー氏は加えた。

今年はキャプティブの設立増加率は減速するだろうが、既存のキャプティブの活動はより活発化するであろう、とチューリッヒに本拠地を置くスイス再保険会社のリスク・ファイナンシングの子会社、「スイス再保険新マーケット」のディレクター、キャロリン・ヘルブリング氏は指摘する。

"個々の企業が、それぞれの目標に合った、誂えのリスク・ファイナンシング・プログラムを設定するのを助けるキャプティブ・ビジネスが今後増大すると予想している"と減ヘルブリング氏は語る。 又、キャプティブの新しい用途を考案中であるとも言う。 例えば、従業員福利厚生給付プランのために、キャプティブ型のプログラムを作成することを考えている企業も現れている。

現在では、レンタ・キャプティブがキャプティブよりも増加している、とフィスク氏は言う。 中規模、 特に最近では、小規模の被保険者がこのレンタ・キャプティブに積極的に取組んでいる。 レンタ・キャプティブでは、 単独でキャプティブを設立できない小規模の被保険者が共同して、損害をプールし、事業利益と投資利益を分け合う。"数年前はキャプティブに税金上の利点はなかったが、最近の法改正によってレンタ・キャプティブへの支払保険料が控除の対象となった"とフィスク氏は言う。 "税法改正によってレンタ・キャプティブが促進されることになったというわけである"

1994年には様々な規模、及び、機能の18のレンタ・キャプティブが存在した。 1997年末にはその数は少なくとも40社に増大した、とマーフィー氏は語る。

"主要な企業損害保険会社の殆どがレンタ・キャプティブの設立に関与しており、 又、大規模ブローカーの多くがレンタ・キャプティブ設立に積極的に乗り出している" とマーフィー氏は語る。 一方、グランド・ケイマンのようなキャプティブの主要設立地では、レンタ・キャプティブ設立認可法を可決させた。 米国内で最もキャプティブ数の多いバーモント州もそれに倣う予定である。

有利な税法に加え、代替マーケットの拡大を助けたその他の要素としては、グローバリゼーションや多くの法制度問題が挙げられる。 例えば生産物賠償責任法改正に関する連邦法案や不法行為法に関する州の取組みである。

しかし、何といっても1980年代半ばのハードマーケットが代替リスク・ファイナンシングの最大の触発物といえるだろう。

成長の波

過去10年間の代替マーケットの成長度合いには起伏がみられる、とマーフィー氏は指摘している。 最初の波は、年間100万ドル以上の保険料を保険会社に支払うことを回避するために様々なタイプの代替マーケットを選択した大規模企業によって作られた。 2番目の波は1970年代後半に起こった; 年間保険料が2万5千ドル、或いは、5万ドルから100万ドルの企業による代替マーケットの選択である。 傾向としては、自家保険プール、トラスト、グループキャプティブ、リスク保有グループを挙げることができる。 実際過去15年間、この企業層の代替マーケットにおける成長が最も活発であったことをマーフィー氏は指摘している。

1980年代半ばの保険危機の頃は、保険会社には引受のキャパシティーがなく、元受保険会社は伝統的なアンダーライティング戦略から抜け出そうとしていた。 元受保険会社はエクセス再保険会社となり、市場では元受保険会社 − かつて20年前、彼等は大規模企業の顧客獲得に競い合っていたのだが − の数は50社から3社に減少した。 "そして残った3社は超過損害(excess of loss)或いは、再保険の類の引受を行った。 彼等は事業収益も投資収益も失ってしまったのだ"とマーフィー氏は語る。

"以来、市場は急変した。 米国の再保険会社はこのビジネスに対し飽くなき欲求を示し、一方、ロンドン市場は明らかに存在の重要性を失った"と氏は語る。

米国の再保険会社がこのビジネスを維持するためには、自家保険プログラムを採用しようとする顧客にアクセスしなければならない、とマーフィー氏は言う。 再保険会社は、その為に元受保険会社を設立するか、或いは買収した。"元受保険会社がエクセス再保険会社としての営業を行なう一方で、再保険会社は元受保険会社としての営業を行なうという状況が起こってきたわけである。 このような衝撃は次々に起こった"と氏は言う。

今、業界には第三の波が押し寄せている。 それは元受保険会社に残された最後の顧客層による波である。 小規模企業顧客層は、業界に400億から700億ドルの保険料をもたらしている。 他の二つの規模の企業層に比して、過去30年間、元受保険会社が唯一、常に、事業収益を上げていたのはこの3番目の企業層においてである。

"この波による衝撃は最も高い電圧を生みだすだろう。 なぜならこの企業層は、代替マーケットが進出した前の二つの企業層とは根本的に異なっているからである。 実際、代替マーケットの根本的な定義ともいえる 自家保険コスト・センター − 現在保険料にして900億ドルから1千2百億ドル − が、自家保険プロフィット・センター に変化する可能性さえ現れつつある。 そうなると何十億ドルという保険料が代替マーケットに流入してくるであろう"と氏は語る。

マーフィー氏は、この市場における成長は、プログラム・ビジネス − 正式なメンバーシップ制度を持たないグループ/団体に対する何らかの担保やサービスのセット − の提供によってもたらされる、とマーフィー氏は考えている。

コモンウェルス社のジョン・ケソック会長も同意する。 "プログラムビジネスには限度というものがない。 そのようなプログラム・ビジネスを管理するのは一エージェントかも知れないし、複数の元受保険会社と取引を行なっている10社のエージェンシーかも知れない。 エージェントは一塊の顧客を選び出し、顧客自身に(自社リスクを)管理させる手段や権限を与えようとしているのだ"

より有能なエージェンシーは、今後12ヶ月から18ヶ月以内に料率の上昇があることを見込んで、エージェンシーの為のキャプティブ設立に乗り出すかも知れない。 "賢いエージェントならこの波を利用し、保険料率に上昇が見られるようになった場合、そのプログラムに自社エージェンシーを参加させるかも知れない"とケソック氏は語る。

労災保険料は最低数値にまで下降し、管理医療は予想したようなコースをたどっており、1998年度の第三四半期の損害率は悪化しており、特に大規模の伝統的な保険会社にその傾向がみられていることから、 プログラム・ビジネスに対する期待感は益々エージェンシー・キャプティブにおける成長を促すことになるだろう。

最先端のセキュリタイゼーション(証券化)

代替マーケットにおいて発展が見込まれている分野は保険リスクの証券化である。 その方法は興味深いものであり、まさに最先端の手法である、とフィスク氏は言う。

証券化というのは保険リスクが資本市場に移管され、そこで機関投資家や個人投資家によって引受けられるという仕組みである。 証券化は1990年半ばに開始されて以来世界的に増加しているが、それでも世界の再保険引受総額の1%を占めるに過ぎない。

現在までのところ米国では証券化は主に自然巨大災害担保にために採用されており、今や資本市場は代替ファイナンシャル・メカニズムとして形成されつつある、とミューニック・再保険会社は指摘している。

これまでで最も話題の中心となったのは、USAA社の4億7千7百万ドルの巨大災害ボンドである。 1992年のハリケーン・アンドリューによる莫大な損害の後、米国の個人保険分野でシェア5位のUSAA社は、次回の巨大ハリケーン災害リスクから自社を切り離すことを望んでいた、と上席副社長のスティーブン F.ゴールドバーグ氏は語る。

"我々は、収益源に於いてダイナミックな競争力を持ちたかった。その為には通常の再保険マーケットと代替マーケットの両方を同時に働かせる必要があった"とゴールドバーグ氏は語る。

USAAが選択した方法は、12ヶ月間、メキシコ湾岸東部のハリケーン・リスクをカバーする10億ドルから15億ドルの上乗せ再保険カバーとしての巨大災害ボンドの手配であった、とゴールドバーグ氏は言う。"従って、通常の再保険会社から取付けた再保険カバーの上に別の再保険を用意したということです。 この部分の90%から95%の金額は、保険業界への新しい流入資金というわけです。 これは我々が過去において決して獲得できなかった資金です。 そして資金の出所とは世界中の生命保険会社、年金ファンド、再保険会社、ヘッジファンド、銀行、投資アドバイザー等です"と彼は言う。

しかし、現在再保険市場はソフトマーケットであり、それによってセキュリタイゼーション(証券化)の発展は遅れるかもしれない、とゴールドバーグ氏は予測する。 "大抵の企業はよほどの必要に迫られない限り、大掛かりな事業や取引には乗り出さない。 どうしてもキャパシティーが必要となって初めて取りかかるものだ。 将来には複数年有効のプログラムも可能になるだろう。 そして新しい資本も流入してくるだろう"とゴールドバーグ氏は語る。

セキュリタイゼーションが業界に与える直接的な影響について意見は様々ある。

シカゴ市のコンサルティング会社、ミルマン&ロバートソン社の取締役であるジェームズ・オーバーホルト氏は、セキュリタイゼーションの可能性は莫大なものであるが、それが業界に与える影響は皆が想像するよりずっと先の将来に現れる、と考えている。

"私が想像するに、可能性に関して言えば現在のモーゲージ証券に近いものではないだろうか"とオーバーホルト氏は言う。 氏は、元グレート・ウェスタン・フィナンシャル社のノンバンク子会社の社長&CEOであった。 "成長のパターンに多くの類似点が見られる。 モーゲージ証券が現在の100億ドル、又は、150億ドルのビジネスに成長するまでには長い年月を要した。 一年、2年で現在のような巨大なビジネスになったのではない"

シカゴ市のエオン・キャピタル・マーケットのCEO、ケビン・キャラハン氏は、年内のセキュリタイゼーションを15から20件と予測している。 1998年に比較すると大きな伸びである。 同社は今年は巨大災害以外の分野 - 例えば自動車、又は労災の分野 - でセキュリタイゼーションが行われるだろうと予測している。

"損害頻度は高いが衝撃度の低い自動車のような分野に要求される規制上の資本要件を考慮した上で、自動車損害の証券化の可能性を探ると、売買の可能性は大である。 そして、今後5年後、或いは、10年後には殆ど全部の保険会社が巨大災害以外の分野に於いて、非常に数多くのセキュリタイゼーションに取組んでいるだろう"とキャラハン氏は語る。

しかし、キャラハン氏にとって、セキュリタイゼーションはもっと大きなパイ − キャピタルマーケット、保険、及び、再保険マーケットの統合 − の一片でしかない。

"巨大災害リスクに直面している保険会社はこれまでキャパシティー、安全性、価額の不安定さ、そして柔軟性に焦点を当ててきた。 今その中からセキュリタイゼーションが生まれてきたわけだが、それは一部でしかない。 全体像をいかに戦略的に捉えるか、だ。 そして戦略上忘れてはならないことは、'保険が歴史的に資産保護の為に購入されてきた'という点だ"と氏は語る。

保険を販売するということは、正にリスクマネジメントであり、 リスクマネジメントとは資産管理なのだ、とキャラハン氏は語る。

"保険を購入することは、資産を管理するということであり、事業金融の一部分なのである。 これは何を意味するかと言うと、保険や再保険を事業金融全体の流れの中で捉え始めなければならないということだ。 これこそが全体像で捉えるということであり、より重要なのだ"と氏は語る。

"資産の買替という考え方が消滅しつつある。 そのことが正にこの様な問題を提起することになっている。 組織における事業金融の意思決定の一部として、保険は全く新しい枝別れを起こし始めている。 組織に対し、いかに資金を供給するかということに関する意志決定の一部となりつつある"と氏は語る。

"現在のところ大規模の組織に於いてのみそれが具体化されている。 しかし、その波は市場の統合に伴って益々増大するだろう"とキャラハン氏は指摘する。

キャラハン氏はこれは保険会社や再保険会社にとっては莫大な好機会になるだろう、と語る。

"もしあなたが株主持分を増進させることに貢献していれば、 正味資産が支出より大きい限りに於いては、 CEOやCFOは殆どどのような出費も惜しまないだろう。 我々は方策や手段においての機会を拡大させているだけでなく、 '単に商品取引を行っているのではない'、ということを主張しているのだ。 我々は実際価値を販売しているのであり、 顧客の為に価値を創り出しているのだ"とキャラハン氏は言う。

それはゴールドマン・サックス社がバーネット銀行に対し、ネイションズ銀行への売却をアドバイスすることによって3千万ドル報酬を得た理由をよく説明している、とキャラハン氏はプロデューサーズ・フォーラムで述べている。 "そしてゴールドマン・サックス社は、3千万ドルもの報酬に値する仕事をたったの6週間でやり遂げたのではない。 しかし、この二つの会社の合併によって生み出される価値に比較すれば3千万ドルなんてほんの小額でしかないのである"

キャラハン氏は、顧客を駆り立てるものの背景にある財務上の問題点を理解しない保険会社は敗退するしかないだろう、と語る。 顧客に価値を提供できない保険会社は"単なる資本の山"でしかないのだ。 "もし、資金が充分にあるとしても、たとえそれが再保険マーケットであれ、保険マーケットであれ、キャピタルマーケットであれ、資本そのものがもはや王様ではないのである。 提供されるサービスや能力が王様なのである"

市場を支配するものは一揃いの財務能力を有し、顧客にサービスを提供し、顧客との関係構築に努め、そして商品開発能力に長けていなければならない。

"それらの能力を有する者があらゆるリスクを負うことを厭わず、キャピタルマーケットに進出することができる者が、損失を分散させることができるのだ"とキャラハン氏は言う。 "戦略を持たず単に資本金一山を有しているだけの保険会社は、存在の意味を失ってしまう。 地球から消えてしまうだろう。 何故なら、引受会社(アンダーライター)として署名欄など消滅してしまうのだから"とキャラハン氏は結んだ。


Best's Review R, Property/Casualty Edition - February 1999
OA.M. Best Company - used with permission
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(これは4月に「保険毎日新聞 - 生保版」《ブローカー・リポート》に3回に分けて掲載されました)

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