米国リポート (2003年7月)

規制法の遵守(その1)

見出し

2,3年前、大手保険会社を含む数社のエージェントによる生命保険の不当販売が行われ、保険会社は契約者に対し莫大な賠償金を支払った。以来、保険商品や流通に関する法規制は一段と厳しくなった。更に、2002年3月に金融サービス現代化法が施行され、銀行が保険業に進出した。保険販売に不慣れな銀行員が規制法に違反することを憂慮して銀行と保険会社は販売担当者のトレーニングに懸命となっている。

本文
1999年プルデンシャル保険会社は違法販売による集団訴訟と別件の訴訟によって10億ドルを超える支払いを命じられた。1980年代から90年代の始めにかけて25万人の被保険者に対し、既存の保険契約を高い保険料の新契約に不当に変更したからである。他の生命保険会社も同様の不当販売を理由に訴えられたが、プルデンシャル保険会社に対する苦情申立の規模が最も大きく注目された。別件とはプルデンシャルの子会社、“プルデンシャル医療サービス・プラン・ニューヨーク社”に対する訴訟である。原告側は「プルデンシャル保険会社は入院費用担保の可否について、医師免許を持っていない契約管理担当者に判断を委ねた。これは保険契約に違反する」と主張した。同社の契約のしおりには「医師免許を有する者だけが医療に関する診断決定権を有する」と記されていたのに、医者以外の関係者が判断を下したのである。こういった一連の事件後、保険商品や販売に関わる規制法は一段と厳しくなった。

変額商品

 規制法はあらゆる保険商品、流通方法、広告に適用されるが、変額商品は特別の注意を要するようだ。変額商品に関する規制法は複雑であることから、社内の様々な部署が規制法遵守に関わることになる。更に、一般保険商品は州法による規制だけであるが、変額商品は連邦法である証券取引委員会(SEC=Securities and Exchange Commission)や業界による全国証券業協会(National Association of Securities Dealers; NASD)の規制も受けることになる。保険会社、規制者(州、連邦、業界団体)、そしてエージェント等、全関係者が商品内容(補償内容)を正しく理解しなければならない。そして消費者に変額商品の利点と“リスク”についての十分なアドバイスを提供しなければならない。

  実際、保険商品全般に言えることだが、変額商品の場合は特に商品開発の段階から規制法を考慮に入れる必要がある。商品開発から証券の作成、そしてマーケティングに至るまで様々な部署の担当者や専門家達、例えば、規制法遵守担当スタッフ(Compliance Staff)、弁護士、アクチュアリー、全国保険業協会認定スペシャリスト、システム専門家、マーケティング担当者等、の協力が必要となる。商品作成の過程に従って各担当者の責任の重大さは変化するが、規制法遵守担当スタッフは終始責任者として各部署との調整や監査を勤めることになる。約款のドラフト作成に際して、規制法遵守担当部署の最も重要な役割は、一般に人にも理解できるような文章表現が使用されているか否かをチェックすることである。保険約款の作成に際しては、州法によって規定された要件を満たすことだけでなく、一般の人々が商品内容を正しく理解できるような表現方法を使用することが重要である。

  一旦商品が完成しても勿論、規制法に関する問題は終わらない。商品説明のパンフレットや広告も州法や全国証券業協会(NASD)規制法の対象となるからだ。又、インターネットの利用が増大しており、ネット上の広告や取引についても新しい規制法が作られている。このように新しい広告や流通手段の誕生は新しい規制法を作り、更に、それは、規制法遵守担当者の責務の拡大を意味する。規制法遵守担当者の責任は益々重くなるようである。ただ、現在、保険業については、州と連邦の規制者が統合しようとする動きが見られること、更に、全国証券業協会(NASD)、全国変額年金協会(National Association for Variable Annuities; NAVA)等、業界団体による自主規制が活発に行われており、規制法遵守担当者達の業務も多少緩和されているようだ。彼らの最終的な目的は、消費者が利点とリスクを十分に理解できるような変額商品を開発し、誤解を生まないような広告や販売方法を実践することである。

銀行の保険販売担当者に法規制遵守のトレーニング

 2000年3月の金融サービス現代化法の施行以来、銀行は積極的に保険販売を行っている。 銀行員に保険エージェントのライセンスを取得させ、又は、既存の生保エージェント雇用し、生命保険、損害保険、年金の販売に懸命となっている。銀行の業界団体で形成されている“銀行の保険参入協会(Association for Banks-in-Insurance)”と生命保険マネジメント協会(Life Office Management Association; LOMA)(注)では銀行に所属する保険エージェントの法規制遵守の為のトレーニング・プログラムを考案した。保険販売に不慣れな銀行が保険販売に関する法律に違反することを防ぐためである。
 このプログラムは、銀行業界団体の「銀行の保険参入に関わる法令遵守諮問委員会」のバンク・オブ・アメリカやチェイス保険エージェンシー等、保険販売に積極的な銀行と生命保険マネジメント協会(LOMA)との共同によって作成された。プログラムには年金、生命保険、医療保険、損害保険販売に関わる法規制が網羅されている。プログラムは3段階に分かれている。一つの段階のテストに合格することによって次のレベルに進むことができる。第一段階は、保険販売に関わる連邦法と州規制法を徹底的に理解することである。中でも“他の金融商品の購入を条件に保険を売りつけることを禁じる”連邦法を理解することは最も重要である。この第一段階のプログラムは、保険販売を兼務する銀行員、保険専門のエージェント、銀行のコールセンターのスタッフ、法規部のスタッフ等、銀行の全スタッフが受講することになる。2段階目は代理人の権限と責任についての講義である。3段階目は主にマネジャーや経営陣を対象にした講義である。経営陣達は、スタッフが規制法に遵守しているか否かを監査し、行内全体で規制法遵守を徹底させなければならない。それぞれの段階でテストを受け、一定のレベルに達した者には称号が授与されることになる。
(その2に続く)
   
(注)生命保険マネジメント協会(Life Office Management Association; LOMA): 60カ国に1,250社の会員を有する。会員は生命/医療/年金保険会社、銀行、その他に金融機関。 会員会社の経営の促進を目指す。 1924年に米国とカナダの保険会社によって設立された。

(保険毎日2月28日掲載)


 

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