米国リポート (2003年2月)

独立エージェンシー/ブローカー専門家職業賠償責任保険(その1)
(Insurance Agents/Brokers Errors & Omissions)

見出し

 米国では保険エージェントが業務上の過失によって、顧客や保険会社に損害を与え、訴訟を受ける割合は医師や弁護士と同様に高い。従って、独立エージェントやブローカーの専門家職業賠償責任(以下“E&O保険”)の付保は必須である。彼らは大抵業界団体を通じてE&O保険を購入し、業界団体や保険教育機関の提供するE&Oリスク対処のためのロス・コントロールのセミナーに積極的に参加している。今回は米国の独立エージェント/ブローカーE&O保険の実態についてのリポートである。

本文

保険エージェントやブローカーは顧客のリスクを分析、評価し、様々な保険会社の約款を比較、最適な保険を選択、提供することを職務とする。しかし、顧客のリスク調査に懸命となっている一方で、彼ら自身も保険プロフェッショナルとしてのE&O危険にさらされている。顧客(被保険者)、保険会社、或いは第三者(被保険者の被害者)は、適切な保険カバーを手配しなかった、エージェントが誠意をもって対応しなかった、十分な限度額を手配しなかった、といった理由でエージェントを告発する。米国では独立エージェントやブローカーがE&O保険を付けずに営業を行うことは不可能であると言って良い。幾つかE&Oによるクレームの具体例を挙げよう。

E&O保険に関わる訴訟の具体例

保険契約者から訴えられたケース

1) 保険契約者の自動車保険は記名被保険者と息子が担保されており、3月1日に満期となった。更改時、A保険会社は息子が前年に2度の大きな事故を起こしたことから記名被保険者から省くようエージェントに要求した。エージェントは息子がカバーされていないという重要な事実を保険契約者に伝えなかった。3月15日、息子は対人事故をおこした。相手は直ちに訴訟を起こした。対し、A保険会社は「息子は被保険者ではない」として防御を拒否した。息子の母親(保険契約者)は保険契約の管理を怠ったという理由でエージェントを訴えた。
2) 保険契約者はエージェントに妻の生命保険を解約するよう書面で依頼した。エージェントは誤って夫の生命保険を解約してしまった。3週間後、夫は心臓麻痺で死亡した。妻は解約された夫の生命保険金額と法的費用の補償を求めてエージェントを重過失で訴えた。

保険会社から訴えられたケース 

1) B保険会社は自動車保険の引受けにおいて、カリフォルニア州から撤退することを決めた。同保険会社は州内の取引エージェンシーにその旨を伝え、60日以内に全ての保険を解約するよう指示した。Cエージェンシーは解約を怠り90日後被保険者の一人が事故をおこした。B保険会社は保険金支払い後、Cエージェンシーに求償した。
2) E保険会社は銀行に金融業者専門家賠償責任保険を販売する場合には、必ず規制法に関わる免責条項を付帯するようにエージェントに指示している。Dエージェンシーはその免責条項を付帯せずに仮契約書(注1)を発行した。その結果、E保険会社は銀行に対し保険金を支払わなければならなかった。銀行に保険金を支払った後、E保険会社はDエージェンシーに求償した。

第三者から訴えられたケース

Fレストランの施設賠償責任保険が満期となったが、更改されなかった。2ヵ月後顧客が店内でけがをした。レストランの施設賠償責任保険が有効でないと知ったその顧客は保険を手配しなかったことを理由にGエージェントを訴えた。この場合は、原告が、エージェントを単に“ディープ・ポケット”と見なして損害支払いを求めているとして訴訟は却下されたが、Gエージェントは防御費用に1万ドルを費やした。

損害の原因

筆者の所属するエージェント/ブローカー協会、IBAウェストがまとめた資料によると、損害を発生させる最大の原因は、顧客のリスクに対する正しい判断や分析を行わなかったことである。これが損害原因のほぼ40%以上を占めている。2番目の原因は手配した保険やその他の損失処理方法が十分ではなかった、又は、顧客の書類に欠落がありそれへの対応が不完全であったことである。3番目はエージェントの内部業務から発生するミスである。それぞれ具体的な例、発生過程、そのような損害を減少させるためのコントロール手法を挙げよう。

1.顧客リスクの確認や分析の不備

例えば顧客のために適切な担保内容を手配していなかったことである。実際にE&O保険で支払いがなされたクレーム例では:

Ø 被保険者が必要とする保険種目/特約が付帯されていなかった
Ø 保険金額が十分でなかった
Ø 付保割合条件付実損填保条項における条件が満たされていなかった
Ø 申込書が不正確であった

どこで、或いは、どのようにしてミスが発生したか:

Ø 顧客のリスクの状況調査を行っている時(リスクを正しく判断しなかった)
Ø 顧客に追加情報を電話で問い合わせた時(顧客の意図を正しく理解しなかった)
Ø 担当者ではなく他の人が顧客からメッセージを受けたが、担当者に正しく伝わらなかった
Ø 保険会社が顧客の必要とするリスクを引受けないのに(又は引受けなかったのに)それに関する追跡調査を行わず、結論を明確にしていなかった

損害がエージェンシーに与えた影響

Ø オーナーや経営者が訴訟に莫大な時間を費やさねばならなかった為、営業時間を失った
Ø 多額の免責金額を負担しなければならなかった
Ø 保険会社との関係が損なわれた
Ø 申込書が完全ではなかったことによって懲罰損害賠償(注3)の対象となった

これらの損害を防ぐための方法としては:

Ø 担保目的や担保内容の見直しを行う際には包括的な調査報告書を作成する
Ø 顧客との会議録を主題別にまとめる
Ø 顧客との会議録を録音する
Ø 顧客への対応(電話、電子メール、レターなど)を記録しておく
Ø 顧客から財物の評価額表を取り寄せる
Ø 現行、又は以前の担保内容を調べる
Ø 必ず再調達価額を調べる
Ø 必要とされる保険限度額を正しく判断する。そのためには被保険者と同地区における支払い裁定額を比較検討する
Ø 申込書は顧客に記入させる
Ø 申込書は顧客に署名させる
Ø 特に危険な状況に関しては顧客の会社名入り便箋に事情を記入し、申込書とともに提出させる
Ø 便箋或いはファックスなど書面に基づいて変更を行う。電話での変更は受け付けないようにする。
Ø

(注1) 仮契約書(binder): 保険が有効であることを証明する証書。証書には被保険者名、保険期間、担保範囲、限度額、免責金額、抵当権者名等、保険引受に必要な基本情報が記載されている。米国では保険始期に保険料の支払いが行われなくても保険が有効となり、エージェントによってこの仮契約書が発効される。証明書の有効期間は通常一ヶ月間で、期限内に保険証券が発行されなかった場合には再度一ヶ月期限の仮契約書が発行される。

(注2) ディープ・ポケット(Deep pocket): 事故を引き起こす原因であったか否かに関わらず賠償金を支払うことができそうな相手を訴え保険金を回収しようとする場合がある。支払いができそうな裕福な相手を“ディープ・ポケット”と呼ぶ。

(注3)
懲罰損害賠償[金](Punitive damages): 主に不法行為訴訟において、加害行為の悪性が高い場合に、加害者に対する懲罰及び抑止効果を目的として通常の填保損害賠償の他に認められる損害賠償。懲罰的損害賠償を保険に含めることを禁じている州があるが、それは、“加害者である企業が負うべき責任が保険会社に移転されることになるから”である。即ち、懲罰を目的とするのだから保険会社ではなく、加害者である企業が負担しなければ抑止効果として機能しない。

(その2に続く)
 


 

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