米国リポート (2002年12月)

 保険会社とエージェントの関係(その1)

ステート・ファーム保険会社の場合

前書き

1990年代初めまで米国の保険会社は採用している流通チャネルによって3区分することができた。独立エージェントを採用している保険会社(エージェンシー・ライター)、専属エージェントを採用している保険会社(専属エージェンシー・ライター)、そして、直販(ダイレクト・レスポンス)である。しかし、現在、流通チャネル間の競争激化に伴い、合併による複合流通チャネルの採用、販売コストの削減や委託契約条件の変更を行う傾向が高まり、保険会社とエージェントとの関係に影響を与えている。

本文

全米ステート・ファーム・エージェント協会は昨年末ステート・ファーム保険会社に対し訴訟を起こしたことをナショナル・アンダーライターは11月27日のオンライン・ニュースで伝えた。保険会社がエージェントのビジネスを妨害している、というのが彼らの言い分である。保険会社が手数料率を不当に引下げ、意図的にエージェントを破産に追いやっている、それは委託契約書及び制定法上の権利違反であると申し立てている。保険契約者との関係を維持し、自身のビジネスを守るため、エージェント達は、保険会社が彼らの同意を得ること無しに委託契約条件を変更することを止めるよう法廷に求めたのである。

ステート・ファーム保険会社の概要

ステート・ファームは、全米最大の損害保険会社である。2001年の正味収入保険料は379億ドルであった(ベスト・レビュー、7月号より)。米国で営業している保険会社2,500社の収入保険料総額3,288億ドルの11%に相当する。ステート・ファームは1922年にジョージ・マヘール氏によって設立された。マヘール氏は20年間農業に従事した後、健康の衰えと共に保険会社に転職した。営業マンとして高い業績を上げたが、保険会社が農業従事者に対し、都市生活者と同様の高い料率を適用することに納得できなかった。マヘール氏は、都市生活者より車の利用度が低く、事故率も低い農業従事者には低い料率を適用すべきであると考えたのである。彼が上司にそのことを告げると上司は笑いながら、“もし、そう思うのなら、自分で保険会社を設立し、農業従事者の自動車保険を引受けたらどうか?”と答えた。そこでマヘール氏はそれを実行した。東海岸の多くの保険株式会社が利用している算定会料率を採用せず、農業従事者の自動車保険を低料率で引受ける保険相互会社を設立したのである。第二次大戦後は、地方都市の拡大に伴う住宅建設、高速道路の建設と自動車普及の波にのり、ホームオーナーズと自動車保険を増やしていった。同時期のTVの普及も追い風となった。同保険会社の名はTVコマーシャルを通じて全米の家庭に知られることになった。1970年代にはシェア首位に立ち、以来収保全米一位を誇っている。現在従業員数は79,200人、専属エージェント16,700人を抱える。

独立と専属の差異

(1)専属エージェントの手数料率の方が低い

1800年代にニューヨーク州やマサチューセッツ州に設立された保険会社、例えば、ハートフォードやトラベラーズ保険会社といった『エージェンシー・ライター』とは異なり、ステート・ファームは専属エージェントのみを通じて保険を販売する。日本では乗合も専属も同じ料率体系が適用されているが、米国の独立エージェント(複数の保険会社の商品を取り扱う)と一社専属のエージェントは手数料率が異なる。独立エージェントの方が3%から5%程高い。複数の保険会社の商品内容を理解し、顧客の要望に合うように2社以上の保険会社から見積を取り寄せる独立エージェントの方が業務量は多いのであるから、手数料率も高いのが当然である。

1930年代にはステート・ファームと同様に専属エージェントを通じて販売する保険会社が次々と現れた。オールステート、ファーマーズ、ネイションワイドである。但し、それぞれエージェントの権限や委託契約条件は多少違いがあるようだ。これらの専属エージェンシー・ライター達は、低保険料、低手数料、そしてTVコマーシャルによってシェアを伸ばし、1970年代半ばには全米の個人損害保険シェアの半分を確保し、1996年には68%のシェアを獲得するまでに至った。

独立と専属エージェントの差異は手数料率だけではない。満期更改権所有の有無である。独立エージェントは満期更改権を所有し、福利厚生も事業費もマーケティングも自社負担である。しかし、専属の場合、満期更改権は保険会社に属し、福利厚生や事業費の一部は保険会社の負担である。但し、ステート・ファームの場合、福利厚生の全額と事業費の大部分はエージェント自身の負担であることから、オールステートやファーマーズの専属契約とは区別され、通常、独立請負業者(Independent Contractor)と呼ばれている。満期更改権の所有とは、例えば、独立エージェントの場合、一社との委託契約を解約した場合、顧客を他の保険会社に移管することができるが、専属エージェントは委託契約の解約に際し、契約を持ち出すことはできない。他の保険会社の専属となっても、独立しても再び一から始めなければならない。

(2)専属エージェントは宣伝コストを負担しない

独立エージェントの手数料が高いのは、彼らは20社又は50社以上の保険会社の財務状況と商品について熟知し、顧客に見積を提供するといった業務量の多さだけが理由ではない。マーケティング業務量である。新規顧客の開拓にはコストを要するが独立エージェンシーはパンフレットの作成、業界紙、ウェブサイト、TV、ラジオ、ビルボードに掲載する宣伝費用を自社で負担しなければならない。複数の保険会社を代表し、“顧客に選択幅を与える利点”を宣伝するのであるから保険会社の費用を期待することは当然不可能である。それが“独立”という意味である。一方、専属エージェントの場合、マーケティング(宣伝)は保険会社が主にTVを通じて行うので彼ら自身は宣伝を行う必要はない。

エージェントのステート・ファーム宛の訴状内容

 ステート・ファームのエージェントは、冒頭に述べた訴状の中で、保険会社が、保険以外の金融商品の販売専門家と提携することを強制している点にも触れている。ステート・ファームは、金融現代化法の可決に伴い、銀行を設立し、オートローンやホームローンに積極的に乗り出している。そのため、損害保険の販売を専門とするエージェントに対し、ローンや生保商品セールスの専門家とパートナーを組み、顧客の相互紹介を行うことを要求しているのだ。しかし、エージェント達は、保険会社が “エージェントのプロフェッショナルとしての業務を選ぶ権限”を侵していること、更に、提携相手から自身の開拓した損害保険が奪われる危険性があると申し立てている。

(続く)


 

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