過去の記事より (1998年11月)

● 保険に関わる不正、詐欺行為 (米国の場合) - そのD

保険会社

殆どの州で、保険会社は社内に詐欺対応の特別調査部署(Special Investigative Units;SIUs)を設置することが法律で義務付けられている。 更に、 保険金詐欺の疑いのある事故報告については、州保険庁の詐欺対策部門に報告しなければならない。

この5年間、詐欺の調査方法が変化しつつある。 かつて、保険会社は法廷や州自動車運転者データ局(DMB)に赴き情報を収集しなければならなかった。 今やPCの前に座って資料収集や調査が可能である。

サンフランシスコに本社を置くクォリティー・プランニング社の調べによると、保険会社の特別調査部署(SIUs)の90%が詐欺調査の為に何らかのソフトウェアを使用していると言う。 ソフトウェアには、外部データベース(External Database)、不正身分証明検査ツール(Fraudulent Identification tools)、治療費請求書検査ツール(Medical bill review tools)、事故再現ツール(Accidnet reconstruction tools)、連関調査ツール(Investigative linkage tools)、地図作成ツール(Mapping tools)等がある。

「不正身分証明検査ツール」は個人の身元確認、「連関調査ツール」は出来事や行動の関係を探索するのに使われる。 「地図作成ツール」によって組織名、住所、金融取引等が、図で表され、理解し易くなる。

保険会社に最も広く利用されているのは連邦保険犯罪局(NICB)のデータである。 保険会社は事故報告を受けとると、保険請求者の住所、免許証番号、電話番号、クレジットカード番号、社会保険番号、生年月日、性別等を同局のデータに照らし合わせる。

例えば、インテゴン保険会社の特別調査部署(SIUs)のマネジャー、トレイシー・ピッカード氏は、ある車盗難事故について連邦保険犯罪局(NICB)のデータベースを調べたところ、一昨日盗まれたと報告された車が実際は4ヶ月前に、没収されていたことがわかった。

又、前述したように東ヨーロッパ人の家族で、移動しながら保険金詐欺を働いているケースがある。 "ジプシー"とか"トラベラーズ"と呼ばれる彼等は食料品店で転倒事故を策したり、自動車事故を企てる。 竜巻の発生時期にはフロリダに移り、竜巻に関連したクレーム詐欺を計画する。

連邦保険犯罪局のデータベースと前述のソフトウェアを利用することによって、これらジプシーの移動ルートや犯罪の手口を探ることができる。

「地図作成ツール」は、例えば放火を見つけるのに利用される:

2年間に渡り50スクエアマイルに500件の放火があったとする。 地図作成ツールを使って、高級住宅には濃い赤、低額住宅には薄い赤で印をつける。 それに住所、住宅購入年月日、購入価格を記入する。 更に、事故日時を加える。 そして、住宅価格の月毎の変化表を見る。 そうすると、焼失した住宅の価格が下がっているのがわかる。 放火された住宅が角に位置していることもわかる。 延焼の可能性が少ないのである。

別の例を挙げる。 同じ住所に名前の異なる二つの医療クリニックがあることが判明した。 検索には3時間かかったが、3つめの医療クリニックを同じ場所に発見した。 建物の所有者とクリニックの所有者を調べていくうちに西海岸に26箇所の偽のクリニックがあることが判明した。 そのグループは私立探偵事務所2つを所有し、その従業員が保険金詐欺を行っていた。 不動産や施設所有者、医師や探偵専門家免許、及びその他の記録をすべて図表にして初めてこれらを明らかにすることが可能であった。

保険会社が独自で'ケースマネジメントソフトウェア'を開発する場合もある。

USF&G保険会社がその例である。

同社ではすべての事故報告がメイン・フレーム・データベースにインプットされる。 労災保険は約40項目の詐欺検索指針に照合される。 もし一項目でも指針が反応を示したら、その事故はアジャスターによって入念に調査されることになる。

指針項目の例を挙げると、事故が報告された曜日である。 もし、報告が月曜であった場合: 週末に傷害を被りそれを労災で支払わせようとしている可能性がある。 又、雇用されたばかり(雇用後1週間から2週間以内)の社員の傷害事故も入念に調査される対象となる。

アジャスターが保険金請求者に多くの質問をするシステムもある。 全質問の回答がそろった後、 特別調査部署(SIUs)に委託すべきか、 もっと多くの質問をすべきか、 詐欺の可能性があるか否か、をプログラムが教えてくれるわけである。

最近、連邦保険犯罪局(NICB)はデータベースとソフトウェアを保険サービス社(ISO)のアメリカ保険サービスグループ(American Insurance Services Group;AISG)と合併することを発表した。 対人賠償事故、自損事故、財物損害(火災)、労災事故に関するデータが集約されることになる。 総合化されたデータベースと洗練されたソフトウェアを利用することにより、 保険会社の特別調査部署(SIUs)のデータアクセスと検索は容易になる。

ただ、これらの道具はあくまで詐欺の危険性をさぐる為のものである。'これは詐欺である'という回答を与えてくれるわけではない。 熟練した調査官なしに詐欺をつきとめることは不可能である。 証拠を探し出し、保険金請求者や目撃者の直接インタビューによって初めて不正を暴く事ができる。 テクノロジーは彼等調査官の有能なアシスタントと言えるかも知れない。


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米国は保険金詐欺は件数とその金額において莫大である。 それは保険業界の問題というよりむしろこの国の社会的、経済的、そして政治的あり方に根ざしているものと思われる。 ここでは保険会社もエージェントも保険契約者も移住者も詐欺を行い、有罪の判決を受け、罰せられる。 不正を犯したエージェント、保険会社名も公開される。

消費者には保険金請求に対し調査も行わず保険金を支払った保険会社名を知らされる権利がある。 消費者は、保険金詐欺によって保険料増額、税金、或いは、サービスの低下という形で損害を受けるからである。 米国ではその損害額は一人に付き年間千ドルを超える。

和歌山の砒素事件で保険金を支払った保険会社名や保険金支払手続きの現状がいつか公開されるのであろうか?

以上

参考資料:

- "Link Analysis: From the Blackboard to the mother board",by Joan Hartnett-Barry,Claims,April 1998
- "Foreign Nationals Add New Twist to Old Schemes", by Kathleen M. White, Claims, September 1998
- California Deparatment of Insurance, Home page
- IIAA、Home Page
- "Special Reports",San Francisco Choronicle" October 29, 30, & November 1, 1998

(これは1998年11月に「保険毎日 - 生保版」《ブローカー・リポート》に数回分けて掲載されました)


 

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