米国リポート (2001年12月)

 保険業界に与える影響

9月11日のテロリスト攻撃は保険業界に多大な影響を与えている。 世界中の保険会社が負うことになる支払保険金額については、様々な機関が数字を発表している。 例えば、ムーディーズは100億ドルから150億ドル、ビジネス・ウィーク・オンラインは300億ドル、英国の新聞インディペンデントは400億ドルと見積もっている。勿論、実際の数字が出るには相当の時間がかかるであろう。

今回保険会社が支払うことになる損害の種類は次のようなものである; 建物や不動産の財物損害、労災、企業の喪失利益、車両、生命及び医療保険、ホームオーナーズ保険(近辺には住居もあり被害を受けている)、オフィスを失った企業のための臨時事務所賃貸費用、破壊されたビルに勤める従業員による雇用者への使用者賠償、 乗客の遺族による航空会社に対する賠償責任、など。 財物損害額だけをとっても10億ドルに上ると予想されている。 加えて、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)はゲーム中止の場合の喪失利益保険を付帯しているが、先週のゲームが中止されたことによる損害額は1億ドルに上る。 

最終的に最大の支払い責任を負うことになるのは、再保険会社であるロイズ、 スイス再保険会社、ミューニック再保険会社、ジェネラル再保険会社である。 例えば、ミューニック再保険会社の航空保険、財物保険、従業員使用者賠償責任、利益保険による損害支払いは9億ドルと伝えられている。 スイス再保険会社では、7億3千万ドル、バークシャイアー・ハサウェイ・グループ(ジェネラル再保険など複数の保険会社の持株会社)の損害支払総額は、業界全体の損害額の3%から5%と予想されている。 ただ、多くの保険会社が実際の損害額を算出するのは次期尚早であると答えている。 
 
世界貿易センタービルの現場では今も尚、救助作業が続けられており、保険会社のアジャスターは現場にアクセスできない状況にある。 各保険会社の巨大災害対策部門は、当局から許可がおり次第、現場近くにコミュニケーション・センターを設置し、損害査定を開始する。 保険会社は連邦緊急事態管理本部(FEMA)、州災害対策本部、州保険庁とのミーティングも予定している。 

一方、ペンタゴンのビルについては連邦政府による自家保険であり、一般の保険会社の支払い責任ではない。

12日のTVで、CNNであったかNBCであったか、「保険約款では、テロリストによる損害を免責としてはいない。相応の保険を付帯している人は保険金が支払われます」というテロップが何度も流れた。 その時、筆者は、被害者の立場を思っての保険業界団体による共同声明であろうと勝手に解釈した。 実際、個人自動車保険やホームオーナーズ保険約款では「戦争、内乱、革命、暴動による損害」は免責とされているが、テロリストという用語は含まれていない。 ただ、企業保険 − 例えば、一般賠償責任や労災保険 − では、保険会社によっては、テロリストによる損害を免責としているものがある。 今回の事件をテロリストによる損害と見なし免責とするのか否かは支払決定の大きな争点になるだろう。 ただ、事件直後、多くの保険会社が、新聞やTVやインターネットを通じ、被害者に対する哀悼の辞を伝え、可能な限り訴訟を避け、早急な支払いを行うという意向を伝えている。

小規模の保険会社の中には支払い不能となるケースもあるといううわさが流れているが、保険情報研究所(Insurance Information Institute; I.I.I.)のチーフ・エコノミストであるハーツォグ博士は、 世界貿易センタービルや航空機などの巨大リスクは多くの保険会社や再保険会社が分担して引受けていることから、今回の事件によって世界の保険システムが崩壊してしまうということは無いとコメントしている。  

これまで米国における被保険損害額の最高額は、自然災害では1992年のハリケーン・アンドリューによるもので、155億ドル、人災では1992年のロス暴動の7億7500万ドルであった。 世界貿易センターは1993年に爆弾事件があったが、この時の被保険損害額は5億1千万ドルであった。 今回の事件による損害はハリケーン・アンドリューの155億ドルの3倍以上と予想されている。 

今回の事件によって保険業界が受けた痛手は支払い保険金額だけではない。 世界貿易センタービルには多くの大手保険会社、再保険会社、国際ブローカーがオフィスを持っていた。 ケンパー、ハートフォード、ファイアマンズ・ファンド、コンチネンタル、メトロポリタン、オールステート、マーシュ、エオン...... 行方不明者にはこれらの会社の従業員が多く含まれている。 

今回の事件が保険の歴史上最大の危機であることは間違いない。

〈参考〉

u インシュアランス・ジャーナル・オンライン、9月13日及び14日
u ビジネス・ウィーク・オンライン、9月13日
u MSNBCオンライン、9月14日


 

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