米国リポート (2001年1月)

 ブローカー業務(その2)


  保険用語辞典には、ブローカーとは、“被保険者に代わって、保険会社との保険の交渉に携わる独立請負業者である”と定義されている。しかし、最近、「ブローカーは代理店とどのように違うのですか?」と尋ねられた場合、筆者は次のように応えている:

“顧客から、リスクの分析やアドバイス、更に、保険の手配について、お願いされるようになったらあなたはブローカーですよ。 必要な保険や保険会社の選択について顧客から任されるようになったらあなたはブローカーですよ”と。


金融総合商品の取扱い  

  ブローカーは一般的に損害保険分野を主な活躍の場としているが、生保分野にもブローカーと同様の機能を果たす組織が存在している。 企業や個人を対象に生命、医療、年金、損害、ファイナンシャル・プランニング、投資プランなど様々な金融商品を取扱っているコンサルタント会社や金融サービス会社である。 特定の保険会社に属すことなく、複数の生命/医療保険会社、例えば、20社や50社の保険会社の商品を取扱う点で機能はブローカーと同様なのである。 

  取扱っている商品とサービスは大別すると個人保険、従業員福利厚生プラン、投資プラン、及び、退職プランで、その中は更に数10種類以上もの項目に分けられている。 このような金融総合商品を扱う会社は小規模であれば10人、大きいところで150人以上の専門家を抱えている。 各自が生命、医療、損害、所得補償、投資商品、資産分析、退職プラン、年金プラン、企業ファイナンシャル・プランの取扱いに長けた専門家なのである。

 生命及び医療保険を専門に取扱っていたグループが損害保険や投資商品の取扱いにまで拡大する場合があり、又は、損害保険を主に取扱っていたグループが医療や年金の分野にまで乗り出す場合もある。 両者とも目的は一つ、顧客にフルサービスを提供すること、及び、顧客との長期関係の維持である。 

  企業客に対し、損害保険と団体医療及び年金を手配したとしよう。 ある年、損害保険が他のブローカーに奪われたとしても医療保険と年金プランのサービスを行っている限り、顧客との関係は絶えることはない。翌年、損害保険契約を取り返す機会があるかも知れない。 大抵の金融総合商品を扱うブローカーは、顧客のファイナンシャルに関わる問題やニーズに対し総合的に応えなければ意味はないと考えているのである。

ブローカーと同等の機能を有する人々

(1) 個人総代理店(Personal-Producing General Agency:PPGA)

 個人総代理店(PPGA)は専属エージェンシー・システム(日本の外務員制度とほぼ同様のシステム)から派生した。 PPGAとは元々生命保険会社のスタッフで、専属エージェント(外務員)の教育と管理に携わっていた。 専属エージェントを募集し、訓練し、監督していた担当者自身が保険販売を行うようになった、それがPPGAである。 

 初期の頃は2,3人のスタッフを抱え、保険会社2,3社の商品を扱うに過ぎなかった小規模なPPGAが、50社、又は100社の保険商品を扱い、スタッフ数も70人、150人として拡大していく。 独立請負業者として金融総合商品を取扱う彼等はブローカーと呼べるであろう。

(2) 様々な形態のグループ

  元保険会社の専属エージェント(キャリア・エージェントとも言う)が独立してグループを形成し、金融コンサルタント会社を設立するケースも多い。 保険会社の専属エージェントとしてトレーニングを受け、3年、5年、又は7年間働いた後、独立して金融コンサルタントやアドバイザーとなる。 生命保険、長期介護、医療、年金などの各専門家が集まり金融商品総合サービス会社を設立する。 彼等も機能はブローカーと同様である。 複数の保険会社の商品を取り扱う独立請負業者なのだ。

(3) 独立エージェンシー

 独立エージェンシーとブローカーの違いは、委託契約書の内容、及び、取扱うリスクであることを前号で説明した。 彼等、損害保険を主に取扱う独立エージェンシーの80%が元保険会社勤務である。 保険会社で商品開発、損害査定、再保険業務などを経験してきた人達が独立エージェンシーとなる。 担保(補償)内容、事故処理、再保険の仕組みを十分に理解した人達である。 そのような経験を有した彼等であるから、顧客のニーズを探り、リスク軽減のためのアドバイスを与え、商品開発に伴い料率の設定を行い、引受け保険会社や再保険会社の探索が可能なのである。 

ブローカーの最近の動向

(1)保険会社との提携
 
 ステート・ファーム保険会社(主に個人及び小規模企業を対象に自動車、ホームオーナーズ、生命、医療保険を販売している全米トップの保険会社)は大手ブローカー社、エオンはと提携した。 企業保険販売拡大を目的とする。 提携後、エオンは“プレーリー・ステート管理サービス社”を設立した。 この管理サービス会社が、ステート・ファームに替わって、商品企画、アンダーライティング、総務を行い、ステート・ファームの16,000人の専属エージェントが販売を受け持つ。 対象とする顧客は、小規模企業と非営利団体で、販売商品は専門家職業賠償責任、雇用慣行賠償責任、D&O(会社役員賠償責任)である。 また、情報テクノロジー・コンサルタント、ウェブ・デザイナー、ソフトウェア開発業者など、テクノロジー関連業のプロフェッショナルへの専門家職業賠償責任保険の販売にも積極的に取り組んでいる。

(2)銀行との合併、提携

  ACOは銀行持ち株会社であるウェルス・ファーゴ(WFC)によって買収された。ACOは国際ブローカー、アコーディアの親会社である。 買収により新会社、“アコーディア・アンド・ウェルス・ファーゴ保険”は米国で5位のブローカー、又、銀行持ち株会社に所有されているブローカーとしては最大規模にランクされることになる。 こういった大手銀行による大規模ブローカーの買収はそれほど頻繁にあるわけではないが、地方銀行による地域の中規模ブローカーとの提携や合併は現在増大している。

* * *
  
日本でブローカーやPPGAが発展する可能性はあるのであろうか? ブローカーが活躍するためには商品内容(補償内容)、商品値段(保険料)、保険会社の戦略や方針、サービスの質において多様化が必要とされる。 顧客が、必ず複数の保険会社の補償内容と見積を比較して保険を購入するよう市場が生まれるのであろうか?

一方、新商品やサービスを開発するようなブローカーが現れるであろうか? 保険会社から真に独立した販売及びサービス提供媒体としてのブローカーが育つであろうか? 又、顧客は様々な金融商品の選択に際し、適切な判断と公平なアドバイスをブローカーに求めるようになるのであろうか? 

  米国の独立代理店は250年前に誕生したときから「独立」請負人であった。 日本ではブローカー制度を作ること、即ち、法律の助けを借りて自由化を推進しようとしている。 ただ、自由化の過程において重要な鍵を握るのは意識改革である。 意識改革ほど難しいものはない。 「独立」や「自由」という意識は法律によって強制的に教えられるものではない。 自発的に生まれてくるはずのものではないだろうか? そして、保険会社や保険購入者の意識改革もさることながら、 代理店が保険会社からの自立を表明した時、日本の真の保険自由化が達成されるように思うのだが。 

以上


 

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