米国リポート (2001年1月)

 ブローカー業務(その1)


  保険用語辞典には、ブローカーとは、“被保険者に代わって、保険会社との保険の交渉に携わる独立請負業者である”と定義されている。しかし、最近、「ブローカーは代理店とどのように違うのですか?」と尋ねられた場合、筆者は次のように応えている:

“顧客から、リスクの分析やアドバイス、更に、保険の手配について、お願いされるようになったらあなたはブローカーですよ。 必要な保険や保険会社の選択について顧客から任されるようになったらあなたはブローカーですよ”と。


ブローカーの活動現状

  損害保険においては米国には4万社のブローカーが営業を行っている。 20年前は9万社存在していたが、競争の過程で閉店を余儀なくされたり、他ブローカーに吸収されたり、とその数は半分以下にまで減少した。 最大規模の国際ブローカー、マーシュの従業員総数は5万人を超え、収益70億ドル(8千6百億円)を誇る。 4万社のうち、75%にあたる3万社が小規模で平均従業員数は10人である。 これら小規模ブローカーの間では、現在、新しい流通チャネル、例えば、銀行、証券ブローカー、インターネットとの競争に勝ち抜くべく吸収、合併やグループの形成が目立つ。 目的は人材の獲得、取扱い保険料収保の増大、取扱い種目の拡大、活動地域の拡大である。

  生保分野(生命保険、医療保険を含む)において保険会社がブローカーを重要なパートナーとして認識し始めたのは最近である。 生保分野においてブローカーは元々特殊な商品や高リスクの契約 − 通常の保険会社が取扱いを嫌がる契約 − を扱っていた。 しかし、専属エージェンシー・システム(日本の外務員制度と同様に、特定の保険会社からトレーニングを受けた販売社員は一社専属となり、同保険会社に拠点を置き販売活動を行う)による販売業績が低下していることから、専属エージェントの維持費用を削減すべく、ブローカーを通じての販売に切り替え始めた。 現在、個人の生命保険販売に占める専属エージェントの割合は55%、残り45%の内、43%がブローカーや独立エージェント、PPGA(後述)によるものである。

エージェンシー対ブローカー
  米国ではエージェンシーとブローカーの兼営が可能である。 例えば、エージェンシーとして30の保険会社とエージェンシー委託契約を締結し、50社の保険会社とブローカー契約を締結しているブローカー/独立エージェンシー社、ABCブローカー社があるとしよう。 エージェンシー委託契約書には、引受け規定、引受け限度額、手数料などが詳細に記載されている。 30社それぞれの引き受け規定、限度額、手数料は異なる。 ABCブローカー社は、顧客のリスクに基づいて、これら30社の中から最適な保険会社を選択し、最適な保険プログラムを組み立てることになる。 例えば、パッケージはX保険会社、労災保険はY保険会社、アンブレラはZ保険会社を選択する、といった具合である。 更に、この顧客は工場建物の地震保険をも必要としているとしよう。 しかし、30社共、エージェンシー委託契約の中で地震保険は除外している。 この時、このABCブローカー社は、ブローカー契約を締結している50社の中から地震リスクを引受けてくれるP保険会社、Q保険会社、R保険会社に、ブローカーとして交渉することになる。 

 保険会社間で、引受け基準や商品内容、保険料に差別化が行われなければブローカー制度が根付かないというのはこういうことなのである。

ブローカーの経営戦略

  ブローカー戦略の中心は「新商品の開発」、「リスクマネジメント・サービス」、「金融総合商品の取扱い」である。 新商品の開発とは、特定の業種グループや顧客層が直面しているリスクを理解し、解決法を見つける、即ち、当該リスクをカバーする為の担保内容(補償内容)を企画し、保険会社と協力して商品化することである。 リスクマネジメント・サービスとは特定の顧客のリスク分析や評価、損害の軽減、最適なリスク移転手法を提案することである。 金融総合商品の取扱いとは、損害保険、生命保険、医療保険に加え、年金・資産・ビジネス継承プラン、投資コンサルティングをも行うことを指す。

商品開発とリスクマネジメント

  商品企画においては通常見落とされている部分を探すことが鍵である。 全くカバーされていない、又は、十分カバーされていないリスクを探し出さなければならない。 例えば、フロリダ州のコンドミニアム管理者賠償責任保険(台風による損害率が高い)、不動産専門家職業賠償責任保険、ペット医療保険、公共団体の土木工事保険など、一般のエージェンシーやブローカーが様々な理由で見過ごしているリスクである。 即ち、多くのエージェンシーやブローカーが〈顧客はこのような保険は必要としないだろう〉〈顧客は無理な要求ばかり押し付けるだろう〉〈保険料が高額過ぎて顧客は購入しないだろう〉〈引受けしてくれる保険会社などいないだろう〉といったことを理由に取扱いを避けているリスクである。 しかし、実際、顧客に接触し、要望や損害に関する情報を収集し、引受け保険会社を探索し始めると、大部分が思い違いであったことを認識する。 他のブローカーが避けている顧客なので、一旦プログラムを作ってしまえば、他ブローカーと競争することなく、顧客の獲得に集中することができる。 但し、他ブローカーが同様のプログラムを作る前に全ての見込み客に接触する必要がある。 他のブローカーが同様のプログラムを作成するのに要する期間は通常3ヶ月といわれている。 3ヶ月以内に見込み客全員に自社売りこみを行わなければならないということである。

  ブローカーのオーナーの趣味から保険商品の開発に至ることがある。 気球の愛好家であったブローカーのオーナーが、気球の保険を引受けている保険会社は米国には1社のみで保険料も高額であることに気づいた。彼は全米気球連盟の会員でもあり、何らかの対策を講じなければならないと考えた。 保険のプロフェッショナルであることから、あるイタリアの保険会社がヨーロッパで気球の保険を数多く引受けており、米国の気球保険の引受けにも関心を抱いていることがわかった。 そこで彼は気球総合保険 − 気球自体の財物損害、第三者賠償責任、搭乗者傷害、気球大会後の参加者が祝うパーティーに起因して発生する飲酒賠償責任保険 − を企画し、連盟を通じて6,000名の会員に提供することを決めた。 引受け会社はそのイタリアの会社である。

 商品開発において2番目に重要な点はリスクマネジメント・サービスを加えることである。 リスクマネジメントを加えることにより損失の度合いを減少させることができる。 例えば、ペットの医療保険では、飼主はペットに定期的な健康診断を受けさせなけれならない。 この定期的な健康診断が「リスクマネジメント」である。 

気球総合保険を申し込む連盟の会員(被保険者)は保険料と共に、25ドルのリスクマネジメント費用を支払う。 これは年に6度開催される気球の取扱いや操縦に関する安全セミナーの受講費用である。 このセミナーを受講しないと保険を引受けてはもらえない。 リスクが高すぎて引受けができないと考えられている顧客にリスクマネジメント・サービスを提供することによって引受け可能な顧客に変えるのである。

(その2に続く)


 

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