米国リポート (2000年8月)

 医療サービスの安全性(その2)

〈カイザー・ファンデーション〉

 最大規模の健康維持機関(HMO)として、カイザー・ファンデーションは、長年、医療サービスの安全性についての研究を行っている。 同社では最近、治療情報システム(Clinical Information System)を開発した。 これは医者による診断データのコンピュータ入力、薬の相互作用を考慮した処方箋の作成、特殊な症状の患者に対する処方箋の作成などを実行するコンピュータ・システムである。 現在、1千8百人の医師がその標準システムを利用している。 3年以内に、同組織の1万人の医師全員と、9万人の医療サービス従事者が利用できるようにすることを目指している。

 その他、ガーディアン・ライフ保険会社、ピコグループ、TIGといった保険会社も医療過誤リスクマネジメント部門を設置している。 そして、ソフトウェア会社との提携によって、処方箋データ管理のソフトウェア開発に投資したり、病院や医者に対し積極的にリスクマネジメント・サービスを提供している。 

 医療過誤問題に取り組んでいるのは保険会社だけではない。 被保険者である企業、医療保険コンサルタント、ブローカー等も安全対策に乗り出している。

企業グループの安全対策

 医療サービスの安全性に言及した声明を発表したのは「馬跳びグループ」という変わった呼称を持つ企業グループである。 同グループは患者の安全に資するため、現行制度の大きな改善(大きな飛躍)を行うことを目指し昨年末に結成された。

 同グループのメンバーにはジェネラル・モーターズを始め優良企業である「フォーチュン500」に名前を重ねる会社、GTE社やUSウェスト社、日本のGEキャピタル・エジソン生命と関係の深いジェネラル・エレクトリック社、ブローカー/コンサルタント会社のウィリアム・マーサーなどが含まれている。 

彼らは従業員の医療プランの選択と購入に携わる事業主として、医療サービスの質向上を提案し、 医者や病院の遂行能力をチェックし、優秀な提供者にはそれなりの報奨を与えようと考えている。 そうすることによって、彼等に苦情を申立てる場合にも根拠や原因を明確に提示することができるからだ。

“医療プラン購入者としての事業主の責任を重要視することを目指している。 我々自身でISO9000(品質管理基準)に類似したものを設定し、医療サービス提供者(医者、病院、プラン管理者、スタッフなど)を評価、査定しようとしているのである”とメンバーの一人は語る。 これらの基準は医療サービス提供者に対し、次のことを奨励することを目的とする:

●医者の指示する処方薬や備品リストの入力及びデータ管理をコンピュータ化すること

処方薬や医療備品の目録管理についてはコンピュータ・ソフトウェアが入手可能であるにも関わらず、米国の病院の30%のみがそのソフトウェアを利用しているに過ぎず、その使用を医者に義務付けているのは3%に満たない。 1998年発行のアメリカ医療協会ジャーナルの統計ではこのソフトウェア使用により、処方薬に関わる過誤の55%を防ぐことが可能であるという。

●集中治療室で働くことができるのは役員会で承認されたスタッフに限ること

資格のある医師やスタッフのみが、患者の診療を行なうことによって患者の死亡や悪化を防ぐことができる

●医療保険料の値段によって医療プランを選択するのではなく、医療サービス提供者の質を基準にすること、など。

同グループの現在の目標はメンバーの拡大、即ち、この基準を採用する企業を増やすことである。 多くの企業がこの基準を取り入れることによって、 より多くの医療サービス機関の医療過誤に対する意識を高めることができるであろう。

更に、従業員への医療過誤も関する情報提供にも力を入れている。 従業員(患者)自身が医療過誤について知ることにより、問題意識を持ち、医療システムを監視する必要があるからだ。 

 医療サービスの安全性についは、医者や病院、医療保険会社、医療過誤賠償責任保険会社、政府機関、企業、コンサルタント、そして、販売者としてのエージェントやブローカー等、当事者全員の協力が必要なのである。 

* * *

 私事だが、姉が看護婦であることから、医療過誤を含め日本の病院の様々な問題について話しを聞く機会がある。 この記事にもあるように、 航空業界でのアテンダントのキャプテンに対するように、一般的に、看護婦やスタッフは、医師の診断や指示に疑問を抱いても容易には問いただしできない関係にある。 姉は看護学校を有する私立病院の婦長を務めているが、曰く、私立病院の方が、国立や大学付属病院よりも、医師と看護婦/その他のスタッフとの関係が官僚的ではない分、リスク削減の一手法 − 看護婦やスタッフが医師の診断に対し、容易に問いただすことができる環境を作ること − は易しいかも知れないとのこと。 そして、米国における医療サービス過誤について資料を翻訳して欲しいと筆者に言う。 

 ただ、苦労して翻訳し、無料で提供した資料に対し、“この日本語はぎくしゃくしている”などとけちをつけるのである。    


(注)HMO: 医療費抑制の動きとして1970年代から奨励され増大しているのが、HMO(Health Maintenance Organization=健康維持機関)です。 HMOは、従来の伝統的な医療保険制度が、患者が一旦医療費を立て替えた後で、保険会社から償還を受けるのに対し、前払いで回避を納入すれば指定医での診察が、立替えすることなく、保険カードによって受けることができます。 HMOはいくつかの医者グループや病院と協定し、前払いの会費で運営されるわけです。 HMOとはいわば「医療友の会」とでも言いましょうか。 多少保険料が安く、定期検診などの予防治療もカバーするなどのメリットがあります。 トラベラーズを始め大手保険会社にはHMOを有しているところがあります(米国の医療制度の詳細については、秋元俊雄著「米国医療保険入門」保険毎日新聞社発行をご参照ください)

〈参考〉

l Joanne W. Kochaniec 「Group aims to improve health safety」Business Insurance, March 27, 2000
l Leslie W. Hann 「Safety Measures」Best’s Review, August 2000

以上


 

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