米国リポート (2000年7月)

 金融業界の自由化

金融制度改革法案可決の影響

1999年11月4日、米議会の上下両院本会議は、金融制度改革法案(1999年金融サービス現代化法案 S.900)を可決した。 この制度改革により、金融機関は、持株会社の下で、銀行、証券、保険の引受業務等、広範な業務に従事することが可能となる。 同法案は、銀行と証券の兼業を禁じた1933米銀行法(グラス・スティーガル)を撤廃し、更に、銀行の保険関連業務を大幅に制限した1956年銀行持株会社法(BHCA)の規定を改正することになる。 

金融改革法案可決の影響や今後の変化の予想を11月4日以降の業界誌から拾ってみた。

金融制度改革法案の可決によって:

● 銀行/証券/保険会社間の合併が増加し、巨大な金融総合会社はその資金源を生かし、テクノロジーに莫大な投資を行なう
● 莫大なテクノロジーへの投資のおかげで直販やクロスセリングが増大する
● データ・マイニングが行なわれ、ターゲット・マーケティングが奨励される
● 巨大金融総合会社、例えば、シティグループやチャールズ・シュワブが、独立エージェントの顧客を奪ってしまう
● ウォール・ストリートの投資家達は、金融機関同士の合併により株価上昇が期待され、株主やミューチュアルファンド購入者は利益を受けるであろうと予測している
● 金融総合商品やサービスの開発に伴い商品コストの低下が促され最も利益を受けるのは消費者である
● 独立エージェント(注1)は地方銀行との提携によって益々販売機会の拡大を図ることができる
● 銀行も保険販売に於いては州保険庁の規制下に置かれる。 エージェント・ライセンスの取得者の増加に伴い、ライセンス取得及び維持費用が低下するかも知れない
● 消費者は保険、ローン、投資商品をそれぞれ異なった機関に求める必要はなくなる。 正に、"ワン・ストップ・ショップ"の実現である
● 銀行、証券、保険ビジネスの統合により、貯蓄と投資と補償を組み合せた新商品が開発されるだろう
● 独立エージェントの需要が高まる。 何故か? 商品の複雑化に伴い消費者は専門家のアドバイスを必要とする。 また、保険会社以外の金融機関、例えば、銀行も販売媒体としての独立エージェントを求めるからである



同法案は、関係業界の対立により、過去20年間、12回もの否決と改正の積み重ねの末にようやく可決に至ったわけであるが、現実では、法改正が行なわれないまま、各監督当局の規則改正や裁判判決を主導とする規制緩和は既に進められていた。 例えば、1980年代以降、カリフォルニア州を始め、ほぼ半数の州で銀行の保険販売が許可されている。 特に、1996年の「ナショナル・バーネット銀行(国立銀行)対ネルソン(フロリダ州保険長官)訴訟」での州保険庁側の敗北によって、銀行と保険業を隔てていた壁 − 1956年銀行持株会社法(BHCA)− は、既に取り崩されたと同然の扱いになってしまっていた。 

商業銀行や投資銀行は保険業界参入を渇望しているのである。

アメリカ銀行家協会(Amercan Bankers Association) による最新の調査結果で、銀行の保険販売が、保険料と商品種類の両方に於いて増大していることが明らかにされている: 

n 1998年の生命保険、医療保険、損害保険の銀行による取扱保険料は、前年比35%の増加し84億ドルとなった 
n 信用保険(注2)と年金の保険料を加えると銀行の取扱い保険料総額は310億ドルとなる
n この1年間に、生命・医療・損害保険の販売を始めた銀行は、200行から300行を数える
n 現在、米国の銀行1万2千行の内、3分の1にあたる4千行が保険販売を行なっている。

又、AMベストは、1998年の生命保険/医療保険における流通チャネル別シェア割合報告の中で、銀行のシェアは現在9.2%であるが、 5年後の2003年には15%まで増大すると予想している。

幾つか例を挙げよう。

〈早くから保険販売に着手している銀行〉

例1) コメリカ銀行(デトロイト、ミシガン州)

1991年、信用保険の販売を開始した。当時同州では銀行業務に付随した保険と見做されている信用保険の販売は許可されていた。 1994年、ミシガン州最高裁判所は、銀行が保険エージェンシーを子会社として持つことを認可した。 既に信用保険の販売で業績を挙げていた同銀行は、翌年生命保険の販売に乗り出した。

1996年の始めには損害保険を専門に販売するフェアレーン保険エージェンシーを買収し、生損保両商品を販売する銀行となった。

小規模企業向け銀行としては全米で10位の同銀行は、今後も銀行顧客に個人保険と企業保険の販売を推進する予定である。 将来は、ダイレクト・レスポンス(電話による勧誘)も計画している 

例2) ノアウエスト・コーポレーション(ミネアポリス、ミネソタ州): 銀行/投資/保険の総合ファイナンシャルサービス会社

保険部門子会社であるノアウエスト保険サービス社は、保険会社350社と委託契約を結んでいる。 6州に40のエージェンシー社を所有し、従業員総数は300名。 年間コミッション収入総額は6千5百万ドル。 

最近、AIGと提携した。ノアウエスト銀行の顧客に対し、電話で個人保険(注3)を販売する。 ノアウエスト銀行が顧客データとマーケティング材料を提供し、AIGの委託エージェントが販売を行う。 顧客データには、ノアウエスト銀行のクレジットカード保有者と口座客の両方が含まれる

〈銀行と保険会社との合併や提携〉

シティ・バンクとトラベラーズ、また、クレディー・スイスとウィンターツールの合併に見られるように、銀行と保険の統合が起こりつつあることは周知の通りである。 

例3)ハートフォード(全米10位以内の保険会社、コネティカット州)

銀行を通じての年金販売ではトップシェアを誇る。 

130名の銀行専任担当者を抱えている。 銀行専任担当者の役目は派遣された銀行で保険販売を援助することである。 定期的に銀行とミーティングを行い、ニーズを探り、契約をまとめ、保険証券を顧客に郵送する。 更に、銀行職員に対するトレーニングにも積極的である。

銀行販売用としてテーラーメードのプログラムを作っている。 通常の保険商品は保険専門家の為に作られているので、銀行のプラットフォーム販売員(注4)には難しすぎて販売できない。 従って、銀行の販売員に理解できるように商品を改造した。 更に、個人生命保険販売のための特別の販売部署も設置されている。

例4)エトナ生命/年金保険会社

1996年以降、銀行7社との提携により、保険販売に着手している


〈銀行とブローカーの提携〉

大型銀行とブローカーの提携、或いは、地方銀行と中小規模の独立エージェンシーの合併や提携も多く見られる。

例5)チェイスマンハッタン銀行(ニューヨーク)

1998年、チェイス・マンハッタン銀行はUSI社(全米で上位7位のブローカー)と提携した。 中規模企業顧客15,000社を有する銀行と大型ブローカーの提携である。 

USI社は、大中規模の企業を対象とした保険ブローカーであるが、チェイスとの提携によって、企業のCFO(チーフ・ファイナンシャル・オフィサー)へのアクセスが容易になる。様々なリスクマネジメント手法、特にリスク・ファイナンシングのアドバイスを提供しようとする大手ブローカーにとって、CFOへのアクセスが容易になることは非常に有利である。


〈証券会社による保険販売〉

例6)チャールズ・シュワブ

ディスカウント・ブローカーである チャールズ・シュワブは、シュワブ生命保険サービス部門を設立した。 グレイト・ウェスト生命・年金保険会社の年金商品を販売している。 これはチャールズ・シュワブの独占商品である。


〈金融総合商品〉

銀行は'信用及び市場リスク'のアンダーライティング(評価と引受)の専門家であり、保険会社は'不慮の災害'の評価、引受けの専門家である。 今、その専門家達(投資バンカーと保険アクチュアリー)は、共同で新しい金融総合商品を創り出そうとしている。

例7) 海外にオペレーションを持つ企業の為に、労災保険/賠償責任保険/外国為替リスクを組み合せた商品が既に考案されている

例8) 製造業者の為の保険である。 特定商品の発売後5年間は最低価格を保証するというもの。 保険料支払と引き換えに、当該商品が値下げにあっても製造業者の利益は補償される。 もし、商品の値段が前もって定めた金額を超えた場合には、製造業者は追加保険料を支払うことになる。



新しい競争の始まり、そして今後の課題

改革法案可決に伴う問題点も提起されている:

課題1)法案に含まれている'機能的'規制条項(注5)によって、銀行の保険業務は州保険庁によって規制される。 一方、保険会社の銀行業務は銀行法によって規制されることになる。 即ち、この条項は、監督当局間の主導権争いに応え、銀行、証券、保険業界間の公平さを護るためのものである。

しかし、グローバル化が進む金融サービス業界にとって州保険庁は保険業務規制者として適切なのであろうか? 金融サービス業界と共に生き延びるためには、州保険規制も現代化を進める必要があるのではないだろうか?

課題2) 巨大総合金融機関に個人財務の全データが集約されることに危険はないのだろうか? プライバシーの侵害問題が発生するのではないだろうか?

課題3)過剰資本で膨れ上がり、商品に対する需要が減少している状況で、代替リスク移転(注6)に顧客を奪われてきた保険会社の業績は他の金融機関より悪い。 (わずかの例外を除き)商品/サービスの開拓にも努めてこなかった。 今や業界の壁を失い、競争に於いて保険会社は益々不利な状況に陥ろうとしているのではないか? 

課題4)金融総合会社は消費者の真のニーズに答えた総合商品を開発できるのであろうか? 一体、消費者は本当に金融総合商品を望んでいるのであろうか? 実際、どれほどの消費者が金融総合商品を必要としているのだろうか?????????


金融業界(生命保険、損害保険、銀行、投資会社という4セクター)のCEO140名を対象に行ったアンケート調査及びインタビュー結果が発表された。 これは、ニューヨークのティリングハースト・タワーズ・ぺリン社によって行なわれたものである:

「新しい流通戦略の展開にあたって最も有利な立場にいる会社は?」 と問われ、銀行、投資会社、生命保険会社のCEOが、ディスカウント・ブローカーであるチャールズ・シュワブを挙げた。

CEOの多くが、「これまでのビジネスのやり方を大きく変えてしまうような競争相手が出現するのではないかという懸念がある」と答えた。 また、1975年の手数料自由化によってディスカウント・ブローカーが拡大した証券業界を例に挙げ、金融業界全体が同様の状況になってしまうのではないかという不安を抱いている、とも。

投資会社、生命保険会社、損害保険会社のCEOの多くが強力な競争相手としてシティグループを挙げながらも、「同グループの戦略が、模範的で、最も有力であるかどうかについては、100%の確信を持ってはいないようである」とティリング・ハースト・タワーズ・ぺリンのスピア氏はコメントしている。

法案可決は、新たな、より厳しい競争世界を創り出そうとしているようである。

連載の終わる頃、「金融制度改革法案可決の影響(その2)」 をお届けしたいと思う。 2001年の始めには、ここに述べた予想や問題点がどの程度現実のものとなっているのであろうか?




(注1) 独立エージェント: 一社専属のエージェントとは異なり複数の保険会社と取引を行なっているのが独立エージェントである。 彼等の責任は、顧客のために、最適な保険料で最適な保険プログラムを提供できる保険会社を選択することである。 独立エージェントは通常会社形態をとる。 米国には、小規模では数人、大規模では何千人というスタッフを雇用し、企業や個人を対象に生損保商品を販売している独立エージェンシーやブローカー社が約四万社存在している
(注2) 信用保険(Credit Insurance): 銀行のローン顧客が返済を終えずに死亡し、返済が不可能になることに備えて購入する生命保険。 信用医療保険は返済を終えずに疾病に罹った場合、回復するまでのローン返済金が補償される
(注3) 個人保険: 個人を対象とした保険。 例えば、生命保険、自動車保険、ホームオーナーズ(火災、個人賠責、盗難、動産総合の包括保険)をいう
(注4) プラットフォーム販売員(Platform Employee): 保険販売のライセンスを持った銀行の従業員(銀行員)。 彼等は例えば、顧客サービス担当者として、新規の口座を開いたり、ローンの申込書を受けるといった銀行業務を兼務しながら、保険を販売に携わる
(注5) 代替リスク移転: キャプティブ、自家保険。 顧客企業が保険料を保有することになる為、一般の保険会社に保険料が流れない
(注6) 機能的規制(Functional regulation): 組織/機関が行う実際の業務内容をベースに規制を適用することを定めた条項。 即ち、銀行という名の下でも、保険業務を行っている場合は保険規制法が適用され、保険会社がローン等の銀行業務を行う場合には銀行規制法が適用される


以上

参考資料:

● Peter van Aartrijk Jr., "Financial Services Reform: It's Late, But Major", Insurance Journal, November 15, 1999, P.6
● "Weekly Insider", IBA West, November 12, 1999
● "Life & Health Report" IBA West, November 12, 1999
● Mark A. Hofmann, "Buyers may benefit from reform bill", Business Insurance, November 1, 1999, P. 1
● Susanne Sclafane, "Financial Services CEOs see Distribution Effectiveness as Key Challenge for 2000", National Underwriter, December 6, 1999, P. 6
● "S.900 Passage Does Not Mean All Battles Are Over", Editorial Comment, National Underwriter, November 22, 1999, P. 24
● William M. Houston,"Financial Services Reform Offers Protection, Opportunities for all Independent Atents", National Underwriter, November 22, 1999, P. 25
● Michael Shapiro, "Customer Connections", Best's Review, August 1999, P. 91


以上

(セールス手帖社『リーダー・シップ』2000年4月号掲載)


(全日本生命保険外務員協会『PRITI』1999年12月号に掲載)


 

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