米国リポート (2000年7月)

 銀行の保険参入


アメリカ銀行家協会(American Bankers Association) による最新の調査結果で、銀行の保険販売が保険料と商品種類の両方に於いて増大していることが明らかになりました。

1998年の生命保険、医療保険、損害保険の銀行による取扱保険料は、前年より35%増加し84億ドルとなりました。 信用保険(注1)と年金の保険料を加えると銀行の取扱い保険料総額は310億ドルとなります。 又、この1年間に、生命、医療、損害保険の販売を始めた銀行は200行から300行を数えます。 現在、米国の1万2千の銀行の内、3分の1の4千行が保険販売を行なっています。

銀行の保険参入に関する歴史的、法的背景

米国における銀行の保険参入について歴史的、法的背景を簡単に説明します。

銀行の保険販売については、主に次の3種類の法律が関与しています:

1. National Bank Act; NBA − 1916年制定
2. Bank Holding Company Act; BHCA − 1956年制定
3. State Laws; 州認可銀行に対する各州法

1. NBAの§24では、銀行業務に付随する保険(例えば信用保険)の販売を認めています。 更に、§92では、人口5,000人以下の市町村の銀行の保険販売を認めています。 連邦政府はナショナル(連邦免許)銀行に対し、保険販売による追加収入を認めることによってナショナル(連邦免許)銀行の経営を援助しているわけです
2. BHCAは、銀行持株会社の子会社による銀行業務に付随する保険の販売を許可するものです
3. ステート(州免許)銀行の保険業務に関する規制です。 現在、半数以上の州が銀行の保険販売を認可しています

信用生命保険や年金において銀行の販売シェアが高いのは、 1960年代から銀行による販売が行なわれているからです。 1980年代には、金融緩和の流れに乗って、カリフォルニアを含め多くの州が銀行の保険販売を認めるようになりました。 筆者が銀行から定期保険や傷害保険勧誘のダイレクトメールを頻繁に受取るようになったのもこの頃からです。

そして、 1996年、銀行の保険参入を大幅に推進することになった決定的な判決が下ります。 フロリダ州におけるナショナル・バーネット(連邦免許)銀行 対 ネルソン(フロリダ州保険長官)訴訟(以下、単に"対ネルソン訴訟"とする)に於いてです。 訴訟内容を簡単に説明します:

@ フロリダ州法は、銀行が保険会社との提携によって保険商品を販売することを禁じている
A フロリダ州に本社を置くバーネット銀行がフロリダ州保険庁に対して訴訟を起した; 申立ては"フロリダ州の禁止条項(@)は連邦法§92に違反する"というもの
B フロリダ州保険庁はマッカラン-ファーガソン法で反論しました; "保険は州法に準ずる。 即ち、保険業に関しては連邦法ではなく、州法が優先される"と。
C 下級審裁判所ではフロリダ州保険庁の言い分が支持された。
D しかし、1996年4月最高裁で"州保険法は連邦法を無効にしない限りにおいて有効である。 即ち、連邦法に反する州法は無効である"ということで、上記(C)の決定は覆されました。

この判決は、銀行の保険参入推進の大きな一歩と見做されています。 訴訟が、連邦免許銀行(連邦法で規制されている)と州保険庁(州の保険業務を取締まる)の戦いであり、州保険庁が敗れてしまったからです。 連邦法と州法は競合したり、矛盾する点がありますが、保険業(引受及び流通)に関しては、各州の法律が優先されるはずであったのに、です。

長い間、保険会社もエージェントも銀行の保険参入を阻止すべく戦ってきましたが、この判決によって"銀行と保険の間のベルリンの壁"は崩れ去ったのです。 

米国の金融業界再編成が加速されつつあります。 グローバルな競争に勝ち抜くためには、各金融業界の規定を撤廃し、銀行、証券、保険の相互参入を認めるべきであると考えられているのです。 関係業界の対立によって正式な法改正が行なわれないまま、監督当局の規則改正やこの対ネルソン訴訟のような裁判判決を主導とする規制緩和が進んでいるのが現状です。 


銀行の保険販売戦略

では、銀行はどのような戦略をもって保険販売を進めようとしているのでしょうか?

独立エージェンシーや保険会社との提携によってです。 

1996年の対ネルソン訴訟によって、崩れ去った"保険販売のベルリンの壁"を前に無念の涙を呑んだ保険会社も独立エージェンシーも、その半年後には、さっさと方向転換しました。 「それなら、銀行と提携しよう」 と。

保険会社との提携

ハートフォード(全米10位以内の保険会社)は銀行を通じての年金販売ではトップシェアを誇っています。 同保険会社は130名の銀行担当者を抱えていますが、かれらの役目は派遣先の銀行で販売を援助することです。定期的に銀行とミーティングを行い、ニーズを探り、契約をまとめ、証券を顧客に郵送しています。 更に、銀行職員に対する保険販売のトレーニングにも積極的です。

同保険会社は、銀行販売用として特別のプログラムを用意しています。 通常の保険商品は保険専門家の為に作られており、銀行のプラットフォーム販売員(注2)には難しすぎて販売できないのです。 そこで保険ライセンスを取得したばかり銀行員にも理解できるように商品を改造しました。

全米で1位と2位のプルデンシャル生命保険会社とメトロポリタン生命保険会社も、1996年の対ネルソン訴訟判決の直後には、銀行を通じての販売を促進する旨を伝えました。


エージェンシーとの提携

リスクマネジメント・サービス社(ワシントン州)は、アメリカ銀行家協会とIIAA(アメリカ独立エージェント協会)の依頼を受けて、1997年12月に調査を行ないました。 銀行、独立エージェンシーそれぞれ一万社を対象とした統計結果によると、 銀行の70%、独立エージェンシーの57%が銀行による保険販売は充分利益をもたらすと回答しています。 実際、銀行と独立エージェンシー社の提携は増大しています。 買収されたエージェンシーは、必ずしも銀行内にオフィスと構えるわけではなく、銀行の顧客データを基にダイレクトメール、ダイレクト・レスポンス(注3)、対面での販売を行います。 

経験と実績のある保険エージェントを採用して銀行の専任のエージェントとする方法をとる銀行もあります。 雇用されたエージェントは銀行内にオフィスを構え、正に窓口販売を行なうわけです。 

アメリカ銀行家協会の調べでは、生命保険、医療保険においては、経験と実績のある専任エージェントによる対面販売と、ダイレクトマーケティング、及びダイレクト・レスポンスを組み合せた方法が最も販売効率が高いという結果が出ています。

* * *

銀行がこれほど保険販売に積極的であるのは、勿論、保険料コミッションという追加収入ですが、もっと重要な目的は顧客との関係強化です。 顧客との接触機会が増える程、顧客をひきつけておくことができる、 即ち、提供商品が多いほど、顧客は離れ難いのです。 別の言い方をすればワンストップ・ショップ(=一個所で全ての買物ができる)の提供です。 顧客が様々な金融商品 - 保険、証券、ミューチュアル・ファンド、そしてバンキング - を一個所で調達できるように、金融総合サービスの提供を目指しているからです。

1998年における生命保険/医療保険における流通チャネル別のシェアは次の通りです。 

生命・医療保険

  1998年 2003年
専属エージェント 45.0% 40.1%
独立エージェント 35.5% 31.9%
ダイレクトレスポンス 2.8% 3.9%
銀行 9.2% 14.9%
インターネット 0.5% 2.9%
その他 7.0% 6.3%

(AMベスト1999年8月号より)

銀行のシェアは現在9.2%ですが、5年後の2003年には14.9%まで増大すると予想されています。

このような米国の銀行保険参入が対岸の火事であればよいのですが。




(注1) 信用保険(Credit Insurance): ローンの顧客が、死亡や長期の疾病の為に返済が不可能になった場合に備え購入する信用生命保険、信用医療保険等。 銀行がローンを提供する際に付随して販売する
(注2) プラットフォーム販売員(Platform Employee): 保険販売のライセンスを持った銀行の従業員(銀行員)。 彼等は例えば、顧客サービス担当者として、新規の口座を開いたり、ローンの申込書を受けるといった銀行業務を兼務しながら、保険を販売に携わる
(注3) ダイレクト・レスポンス: 電話による保険の勧誘方法


以上

(全日本生命保険外務員協会『PRITI』1999年12月号に掲載)


 

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