● 米国クラスターについて
- そのA
【ケース4】
ブルック社
カンサス州のブルック社の設立のきっかけは変わっている。
ブルック社は元銀行所有のエージェンシー数社によって設立された。
80年代後半、カンサス州は深刻なハードマーケットの中にあった。
多くの保険会社が州から撤退、銀行の多くがエージェンシー経営から手を引いた。
ブルック社のメンバー・エージェンシーであるへインズ・アソシエイツ社もそれまで取引保険会社も11社あったのが僅か3社までに減少した。
銀行所有のエージェンシーの殆どが独立後は収保が低かったことから取引保険会社数も限られた。
中には収保僅か10万ドルのエージェンシーもあった。
そのような小規模のエージェンシー数社が共同出資することによってクラスター・コアとしてのブルック社を設立、取引保険会社数を増やそうとしたのである。
現在、ブルック社のメンバーがアクセスできる保険会社数は20社に上る。
今やメンバーエージェンシーは最低取引収保要件を満たせるかどうかの心配から解消された。
"今日顧客は洗練され、保険に関する知識も増えている。
担保内容、保険料により広い選択幅を求めるようになった。
クラスター設立によって選択幅を提供することができたから顧客を維持できたのだ。
それができければ顧客はステートファーム(米国最大のダイレクトライター)を選ぶだろう。
クラスターを設立しなかったら果たして今日生残ることができたかどうか疑問である"とメンバーは語る。
クラスター設立の利点
小規模の独立エージェンシーが生き延びるための手段として形成したクラスターであるが、利点は他にもある。
「規模の経済」によるコストの削減である。
広告費、事務機器、オフィスのスペース、人材の共有によって経費を分担することができる。
特に特殊な能力を有する人材 −
コンピュータシステム専門家、ロスコントロール専門家等 −
を小規模のエージェンシー一社で抱えるのは大変なコスト負担となる。
後継者問題も小規模エージェンシーにとって重要な課題の一つである。
子供が保険エージェンシーを引継ぎたがらない場合は多い。
従って、彼等はクラスターに入ると同時にPre-sale Agreement(事前売買契約)を結ぶ。
疾病、引退、後継者不足の為に営業を継続できなくなった場合、クラスター内の他メンバーに自社の契約を買取ってもらう。
長年経営に携わってきたオーナーは自分の顧客に愛着がある。
同じクラスター内で親しくなったメンバーに譲り受けてもらった方が更改率も高くなる。(注4)
(注4) エージェンシー間の契約の売買: AエージェンシーがBエージェンシーの契約を買取った場合、Bエージェンシーのオーナーは、
契約の更改に際してAエージェンシーに協力する。
更改時の顧客とのミーティングにAエージェンシーに同行することもある。
契約は大体年間手数料収入の1.2倍から1.8倍で売却されるが、買収側はその金額を一括で支払うわけではない。
更改率を基に数年にわたって支払われる。
従って、売り手と買い手の経営方針、顧客サービスのスタイルが似ていること、両社が更改に際して協力することは契約の移管において非常に重要である。
保険会社との交渉力が増大する。 最低取引収保が100万ドルの保険会社に対し、年間1千万ドルの収保をもたらすクラスターコアは手数料アップの交渉を行なうであろう。
保険会社との取引額が増えることによって、Contingency CommissionやProfit-sharing
Commissionなど付随コミッションを得る可能性も高くなる。
更には、特殊商品の開発や販売も可能となる。
保険会社にとっては不利な点である。
エージェントが大規模化することによってコントロール力を失う。
又、クラスターのメンバー一社との関係が悪くなることによって他メンバーやクラスター・コアとの関係に影響を与えるといったことがあるかも知れない。
クラスターとは異なる別の形のグループ化:
"インシュアランスセンター"として複数のエージェンシーが設備、機器、スタッフを共有することである。
エージェンシーは個々で保険会社と委託契約を結んでいる。
設備、機器、人材の経費削減を実行できる
又は、"フランチャイズ・ネットワーク"に参加する。
同一のエージェンシー名と同レベルのサービスを提供するネットワーク組織として、知名度を高めることができる。
【ケース5】
エージェンシー・ピーク・パフォーマンス・エクスチェンジ(APPEX)
1997年設立。
現在メンバーの平均収益は450万ドル、 中規模のエージェンシー/ブローカーである。
入会金が5千5百ドル。 月会費は、売上げを基に計算されるが大体500ドルから600ドル。
メンバーは収益マネジメント、経費マネジメント等の経営手法をAPPEXから習う。
セミナーでは成績表も皆に公開される。
又、メンバーの業績データは他のエージェンシーと比較できるようになっている。
現在メンバー数は70社で1999年の終わりまでに会員を200社にする予定である。
2つの部門が設置されている。 一つはCapital Resources Company(CRC);
目的はメンバー会社への融資である。
資金は保険会社や再保険会社で、5年間は低率あるいは無利子で借りることができる。
中小規模のエージェンシーに欠けているのは運転資金だからだ。
二つ目は、1999年に予定しているナショナル・ブローカーの設立である。
20社ないしは40社のメンバーがこれに参加するであろう。
日本のおける代理店のグループ化
複数の保険会社と委託契約を結んでいても日本の乗合代理店は、米国の独立エージェンシーとは異なる。
日本の場合、これまでは商品に殆ど差がなかったので、契約をA保険会社からB保険会社に移管する意味はなかったという現状がる。
しかし、今後は商品内容の差別化が起こり、保険会社は最低取引収保を定めるだろう。
・ 最低収保要件を満たすことのできない乗合代理店はどう対応する
のであろうか? 一社専属の代理店となるのだろうか?
・ 顧客が更改時に必ず複数の保険会社からの見積を要求する程に
保険会社間での商品に大きな差違が出てくるだろうか?
・ 顧客は、保険会社を選んでからその代理店に保険手配を依頼する
のでなく、先ず、乗合代理店を選び、保険会社と商品の選択につい
て適切な判断と公平なアドバイスと求めるようになるだろうか?
米国では独立エージェンシーとして顧客に幅広い選択権を提供するためには、複数の保険会社との委託契約を維持する必要があった。
更に、資産である満期更改権を保有しながら、即ち、独立エージェンシーとしての自社経営を維持しながら、マーケティング(保険会社取引)において便宜を図らなければならなかった。
クラスターを形成せざるえを得なかった米国の独立エージェンシーにはこのような背景がある。
事情の異なる日本で代理店がグループを形成しなければならないとした時、そのトリガー(引き金、誘因)となるものは何であろうか?
必要性がグループの目的や機能を決定するだろう。
切羽詰まった、決定的な必要性がグループ形成の成功を左右すると考える。
(これは1999年2月に「保険毎日 -
生保版」に掲載されました)
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